アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
「コタ、他の誰とも会ってなかったん?」
「俺?うん。この生活になってからハルが初めて」
「すげえ誘われてそうなのに」
「まー毎日スマホは鳴るけど…基本暇人だと思われてるから」
「ふーん」
そのタイミングで、ヴーヴヴ、とテーブルに置いたスマホが鳴る。
「だれ?」
「マキちゃんだ。暇だったら飲もーって」
マキちゃんは俺たちと同じサークルの女の子だ。身長はたぶん160cmくらいあって、いつも高いヒールを履いた、一見強めの子。
だけど実は結構自分に自信がなくて、たまに「相談に乗ってほしい」と飲みに誘われることがある。
「あー、原田か、コタのこと好きそうだもんな」
「いや、ない。それはない。たぶん話しやすいだけ」
というより、マキちゃんが好きなのはたぶんハルなんだと思う。マキちゃんからはしょっちゅうLINEがくるけど、3回に1回はハルの話題だ。
でも、言わない。それがきっかけでマキちゃんとハルが付き合うことになったとしたら絶対に嫌だから。
「コタって鈍感だもんなあ」
「ハルにだけは言われたくない」
「なんだそれ」
ハルが鈍いからこそ、俺はこの綺麗ではない諸々の感情を隠しながらハルと接していられるわけだけど。
でもハルは、自分以外のことに関してはするどいことがある。
たとえばマキちゃんが他の女の子に「マキってほんと細いなー!」って褒められてたとき、
他のやつらは同調して「うらやましいよなー」「私の体重分けてあげたいよ」なんて好き勝手言ってた。
みんな、褒め言葉として言っているのはわかったけど、当のマキちゃんの顔はなんか固くて、
たぶんマキちゃんはそれを言われるのがあまり好きじゃないんだと思う。
実際、普段からマキちゃんは身体の線が出る服はあまり着なかったし、細く見える黒とか縦縞とか、そういうのを選んでいるところも見たことがなかった。
「わ、手首ほそ!こんなんしかない!」
3男の先輩がマキちゃんの腕をつかんだとき、それはやり過ぎだって本当はすぐにでも止めたかった。
けどこの空気を悪くしてマキちゃんが逆に困っちゃったら、とか、先輩の機嫌を損ねたら、とか余計なことを考えてしまって、一瞬反応が遅れた。
そこでパッと動いたのがハルだった。
「先輩、セクハラ!レッドカード!」
「わ、なんだよハルキ!」
「かわりに俺の二の腕触ります?」
自然に先輩の手をマキちゃんから離して、自分の腕に持っていく。
「触らんわばーか!俺は華奢なのが好きなの!」
「人の体型あれこれ言うのもセクハラっすよー」
「なんだよー褒めてるのに」
「…先輩のおでこ、広くて可愛いっすね」
「おいっハゲてるって言いたいのかよ!」
「褒めてる褒めてる、つるってしてて素敵だなって」
「嘘つけー!生意気なやつめっ!」
いつの間にか、ハルと先輩のやりとりにみんな爆笑してて、マキちゃんからみんなの意識が逸れたのがわかった。
なんもできなかった自分が恥ずかしいってこと以上に、ハルが一瞬で場の雰囲気をかえたことに驚いて、
それからなんとなく気になって観察してたらいつのまにか今の感情が芽生えていた。
とまあこんな感じ。
たぶんマキちゃんがハルのことを好きになったのもこのときなんだと思う。
【ごめん、今もう飲んじゃってて。また今度ね】とマキちゃんに返信すると、すぐに【だれと?】と返ってくる。
【ハルとだよー】
【そうなんだ!もしかして宅飲み?実は用事あってコウタくんの家の近くにいるんだけど…】
残念だけど、俺んちじゃなくてハルの家なんだよなあ。
ハルの家までは頑張ればチャリで来られる距離ではあるし、実際今日はなんとかチャリ漕いできたわけだけど、ハルんちにマキちゃんを入れるのはぜってーやだからそれは言わないでおこう。
まあ仮に宅飲み会場が俺んちだったとしても、絶対この空間に他のやつは呼ばないけど!
「原田、なんだって?」
「俺んちの近くに用事あったらしくて今その辺いるんだって。俺んちで宅飲みしてんなら参加したかったみたい」
「なんでコタんち知ってんの?」
「1年ときタコぱしたんだよね。上京してきたばっかだったししょっちゅういろんなやつ呼んでてさ」
「なるほど」
「おー」
「…」
一瞬変な間があって、そういやハルに近況聞いてもらってばっかりだって気づいた俺はスマホを置いて、ハルに話題を振る。
「ハルは?自粛期間中はどうしてた?引きこもり?」
「んー、コタほど徹底はしてなかったかな」
「出かけたり?」
「そんな遠出はしてないけど、人とは会ってた。実はさ、」
ハルがちょっと照れ臭そうな顔をして、俺の頭の中でアラームが鳴る。
聞かなきゃよかった。
他の話題にしとけばよかった。
あっただろ、課題の話でも、芸能人の話でも、今やってるゲームの話でも。
「俺、彼女できたんだよね」
その言葉を聞いた俺は、グラスに伸ばした右手ごと固まってしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 9