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林間学校*2
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Side.冬真海
クラスごとに振り分けられたバスの中、
賑やかな生徒たちを他所に夕陽はパシャパシャと仕切りに写真を撮っていた。
「ゆうひ?何撮ってんの?」
俺の隣で窓に張り付く横顔を、
人差し指でつんと小突く。
「あ。えと…写真をね…。」
「それは見たらわかる。何で写真なんか撮ってんの?」
だってここはまだ何もない田舎の公道で
どうせならみんなと混ざって楽しく話せばいいのに。
どこからか回り出した絵しりとりだって
夕陽は参加せずにさっさと前の座席に回してしまうんだから。
もしかして、りょうすけ先輩が今どこにいるんだとか何とかメッセージ送りつけてきてる…とか?
あの人…せっかく夕陽が自由になれたこんな時でさえも縛り付けてくるとか、
本当に気持ち悪いくらい執着してる。
そう思って問いかけた、俺なりの心配だったのだけれど
夕陽の口から出てきた答えは俺の考えていたものとは違った。
「…兄ちゃんね、僕のせいで林間学校の日休んじゃったんだ。多分だけど…修学旅行も行かないと思う。
…だからね、少しでもそう言う気分を味わって貰いたいなって…思って…。」
「…あー。」
そっか。
こいつはそう言う奴だった。
そして、兄として、弟のために十分すぎる程必死になっているあの人の事もわかる。
わかるけど、何か……。
もっと楽に生きればいいのに。
もっと互いに寄り添いあえばいいのに。
夕陽たちの家族がどれだけ複雑なのかとか
俺にはよくわからないけれど
夕陽とあの人を見ていると
どうしてもそんな考えが、俺の頭の中には浮かんでくる。
「…こんな何もない所撮っても先輩喜ばないだろ。」
「っえ、……そう…かな……。」
「うん。だから、もっと近くなって綺麗な景色見えたら教えてやるからさ……ちょっと寝てたら?」
少し疲れた顔もしてるし。
「う…うん、そうだね。じゃぁ…ちゃんと、起こしてねっ?」
「おーよ。」
そう言うと、夕陽はようやくスマホをしまって
背もたれにピタリと身体をくっつけた。
30分もしないうちに、静かに肩を上下させるその顔は
すごく優しくて、温かそうで
ふと、夕陽の髪の毛に触れようとした時。
「……ん、…にぃちゃ……。」
「…はぁ。」
行き場をなくした手で、ボリボリと頭の後ろを掻いた。
わかってるんだ、俺だって。
夕陽が望んでいるのは他の誰でもない、りょうすけ先輩からの温もりだって事。
先輩だって昔は、夕陽に優しく笑ってたのに。
マジで不器用な奴らだよな。
夕陽を通り越して窓を覗けば
太陽の光がキラキラと反射する海が見えた。
夕陽の口元はうっすらと微笑みを帯びている。
…夢の中のあの人は、優しくお前に笑ってくれてる?
無音カメラで景色を数枚撮れば
その中で一番綺麗に写った一枚を
夕陽に送信しておいた。
多分続きはありません。多分。
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