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第二章「発情の香り」《8》
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「俺、人前であんま泣いたことないし、ホントはこんな……気安く身体触らせたりとか、しないタイプなんだけど……」
「え?」
今度は俺が首を傾げる。
「泣き虫の間違いじゃないのか」
「ち、ちがう! 俺、レイさんの前でしか泣いてねーもん。どっちかっていうと今まで一匹狼だったし!」
必死に前のめりになって否定してくるリトに、「それ自分で言うか?」と小馬鹿にしたように返す。
「信じてないでしょ……? マジだから!」
子どものようにギャーギャーと喚いていたリトは、しばらくすると不意に真剣な顔を見せた。
「……俺、殴られるのとか、蹴られるのとかは慣れてるって言ったじゃん。……オメガってわかってから、どこで働いても見下してくる連中がいて、俺はいっつもストレス発散に使われてた。えっと……変な意味じゃなくて、暴力の方ね」
そう言って一呼吸置いたリトが静かに目を伏せる。
「だから、どこも長く働けなくて色んなバイトを転々として、やっと十八歳になったからここに来た」
リトは何かを言い淀んだあと、少し考えてから再び口を開いた。
「……俺が高一のとき、一億の借金を残してオヤジが消えた。それがわかってすぐ母さんが自殺して……最後に会ったとき、母さんに『お前はあの人の息子だから、お前が責任をもって返しなさい』って言われたんだ。だから、高校中退して仕事探して、それで何とかギリギリ食いつないで……」
リトは身体を小刻みに震わせ、一度言葉を区切った。泣いているのかと思って顔を見たが、涙は出ていなかった。
「でも、馬鹿だった……。十六のガキが一億なんて大金、どう足掻いたって稼げるわけないのに。利子ばっか増えてって、それを返すだけでも大変で。二年頑張ったけど結局二〇〇万しか返せなかった。そしたら急に、真面目に働いてるのが馬鹿らしくなっちゃって……」
「それで身体を売ろうって?」
「そう……」
へにゃっと眉尻を下げて笑ったリトは、「でもそんな甘い世界じゃなかった、ごめんなさい」と俺に謝った。
リトは話すだけ話してスッキリしたのか、ダラッと身体から力を抜くと、イスの背もたれに寄りかかった。その横顔は泣いているのかと思うほど悲しげで、思わず口を開いていた。
「稼げるだろ、一億くらい」
「え……?」
リトが怪訝そうにこちらを見る。
「俺は一晩で、大体二〜三人、多い時なら四人の客を取って、三〇〇万稼ぐ。客にもよるが、一週間で大体二〇〇○万。単純計算で月八〇〇〇万。お前の言う一億は、ここでは大した額じゃない」
リトはポカーンとした顔で、理解出来ていないのか呆然と固まった。しばらくしてやっと目をぱちぱちとさせたかと思うと、眉間にグッとシワを寄せる。
「……そ、それはレイさんだからでしょ」
「俺には無理……」と、怖気づいた顔をするリトを鼻で笑う。
「まぁ、うちでは未成年は本番ができないからな。短期間に早く稼ぎたいなら、もっと非合法なことを平気でやる娼館を紹介してやる」
半分冗談で半分本気で、その現実を知っているからあえて言葉にする。
「半年生きていられるか、保証できないけどな」
俺の言葉にぶんぶんと首を横に振るリトを見ながら、心の中で『やっぱり犬だな』と思った。
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