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第三章「痛みの香り」《7》
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─リトside─
男情館のボーイ寮の一室。
部屋のインターホンが軽快な音を立てる。玄関に向かい、事前に連絡を受けていたその人を部屋に招き入れた。
「やっほー、リトくん。ご飯持ってきたよー」
この人はイツキさん。
今日のお昼に知り合ったばかりだけど、何となく良い人だっていうのはわかる。目が大きくて可愛いのに大人の雰囲気もあって、目が合うと少しドキドキしてしまう。
「ありがとうございます!」
俺の夜ご飯をレイさんから頼まれたらしい。イツキさんはβだけれど、俺を見下したりせずに、発情期の俺のためにわざわざ抑制剤を飲んでまで来てくれたみたいだった。
お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな……。
「部屋から出るなってレイさんに言われてたから助かりました」
「あー。まぁ、今日はね」
十九時を過ぎ夜ご飯をどうしようかと思っていたところに、イツキさんから連絡が来てご飯を持ってきてくれることになった。
何か意味ありげに返すイツキさんを不思議に思いながら、お弁当のフタを開ける。
「イツキさんは、今日お休みなんですか?」
俺がそう聞くと、イツキさんは割り箸を割ろうとしていた手を止めて、こちらをキョトンとした顔で見た。
「あれ、知らない? 今日はね、店自体、臨時休業なんだよ」
「え?」
今度は俺がキョトンとする。
「レイに聞かなかった?」
「……聞いてないです。何かあったんですか? レイさんは今日指名が入ってるって……」
ついさっきまでこの部屋にいた人物を思い浮かべる。たしかレイさんは、十八時から指名の予約が入ってるって言ってたはず。
「違う違う。今夜はそのレイの客の貸し切りなんだよ」
不安が顔に出ていたのか、俺を安心させるようにイツキさんは微笑んだ。
イツキさんがお弁当を手に持ち、不思議がる俺を置いて「いただきます」と手を合わせる。
「い、いただきます……」
遅れて俺もお弁当に手をつけた。
「そのお客さん、そんなに凄い人なんですか? 貸し切りって……」
「んー、まぁ、何と言うか。凄い人っちゃ凄い人なんだけどね」
歯切れの悪い言い方をしながらイツキさんが、ご飯を口に頬張る。今日は唐揚げ弁当らしい。ちなみに俺はリクエストを聞いてもらって親子丼だ。
「アルファなんだよ、その客」
不意の言葉に、口に運ぼうとしていた箸が止まる。
「え? アルファ……?」
驚きのあまり目を見開く。ここにはαのお客さんは来ないと思っていたから。
「そ。本当はαはお断りってのがこの店のスタンスだけど、今日の客はレイとは古い付き合いだから特別なんだよ」
イツキさんの説明を聞きながら、漠然とした不安がこみ上げる。
「だから、今日の十八時から明日の十時までは、清掃スタッフも俺らボーイも、誰も本館に入っちゃいけないってわけ」
平然とした顔で「オーナーは入れるけどね」と付け加えて、イツキさんは顔に似合わず豪快に唐揚げを頬張った。
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