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第四章「好きな香り」《6》
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なんとかシャワー室へとたどり着き、「あとはいい」と言ってリトを外に閉め出した。
壁に体重を預けながら、力の入らない身体でオーナーが着せてくれたのであろう服を脱ぎ捨てる。あちこちに貼られたガーゼと、手首に巻かれた包帯を外せば、現れた肌を埋め尽くすあの男との情事の跡に嫌悪感がこみ上げた。
「ははっ…クソがよ……」
慣れているとはいえ、それが不快で仕方なかった。
乾いた笑いが口から漏れるのをそのままに、フラフラと浴室に入る。シャワーの蛇口を捻り、まだ温まっていない冷水を頭から被った。
十二月の刺すような冷たさが、体中の痛みを紛らわせる。段々と温かくなっていくお湯があちこちに染みたが、もはや大して気にならなかった。
とにかく全身にまとわりつく嫌な感覚を取り去りたくて、必死に身体を擦った。
──リトside──
「なんだ一緒に入らなかったのか」
レイさんをシャワー室へと送り届けて、ドアの前に立ち尽くしていると、後ろから声をかけられた。
「………」
何も言えずに声の主を振り返ると、オーナーに苦笑される。
「……なんつー顔してんだよ」
オーナーが慰めるように頭を撫でてくれるけど、お腹の中で嫌な気持ちがぐるぐるしていて、それが何なのかわからなくて気持ち悪かった。
「俺は……何のためにここに呼ばれたんですか」
オーナーの顔が見れなくて、うつむいたまま問いかける。
「俺、レイさんに何もしてあげられないです……」
自分でも情けないほど弱々しい声だった。
オーナーは俺の頭を撫でていた手を離すと、深く息を吐き出して微かに笑みを浮かべる。
「お前はこうなったときのレイを知らないから、何も出来ない自分に腹が立つのかもしれないが」
俺の心を見透かしたように、オーナーは言葉を紡ぐ。
「ちゃんとお前は役に立ってるよ」
「ぇ……?」
思わず顔を上げて、眉間にシワを寄せた。
「いつもだったら、レイは目が覚めた瞬間、大暴れしてる。俺でも止められないくらい物に当たり散らして、大声を出して、薬をオーバードースするまで会話すら成り立たない」
「…………」
「今日はそんなことなかったろ?」と続けるオーナーに、返す言葉が見つからない。
あのレイさんが……?
いつも余裕があって冷静なレイさんが、そんなことをするなんて想像できなかった。
一瞬オーナーが俺を励ますために嘘を言ってるのかと思ったけど、どこか苦しそうな顔をしているのを見て本当なんだと悟った。
「レイはお前のことを特別扱いしてんだよ」
「……?」
言葉の意味がわからなくて、静かに首を傾げる。
「お前に情けないとこ見られたくねーの」
ニヤッと笑いながら言われても、やっぱりよくわからなかった。そんな俺を面白そうに見てくるオーナーに、ずっと気になっていたことを聞いてみる。
「なんでこんな目に遭ってまで、白川って人の相手なんかするんですか……?」
オーナーは俺の口から「白川」という名前が出るとは思っていなかったようで、一瞬驚いた顔をした。
少し思考を巡らせるように視線を彷徨わせたあと、笑みを引っ込めたオーナーがバツの悪そうな顔で口を開く。
「……それは、レイに直接聞くといい。勝手に色々話しちまったけど……あいつはその話をするのも、されるのも大嫌いだ」
複雑な顔をするオーナーに何と言っていいかわからない。もしかしたら、レイさんにとって、この話は人に知られたくないことなのかもしれない。
俺がそんなことを悶々と考えていると、徐ろにオーナーが口を開いた。
「そろそろレイの様子を見て来た方がいい」
「え?」
突然の言葉に、驚いてオーナーの顔を見る。
「いつもある程度のところで上がらせないと、キズが余計に酷くなる」
言葉の意味を理解した途端、反射的に後ろの扉を開け中に入っていた。
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