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第五章「揺れる香り」《7》
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「…………」
「で、さっきの話だけど」
訪れた沈黙の時間を壊して、カオルさんはケロッとした口調で話し出す。
「レイ、本当にリトのこと好きじゃないの?」
「え゛ッ………」
カオルさんの急な言葉にびっくりして、持っていたカップを落としそうになった。
思ったより大きな声が出てしまい、恥ずかしくなって誤魔化すようにカップに口をつける。甘い味が口に広がったけど、正直味わってる余裕はなかった。
ドキドキしながらレイさんを横目で盗み見る。意外なことに、特に表情は変わっていなかった。
「そうだな」
落ち着いた口調でそう返し、俺と同じようにカップを手に取ったレイさんが静かにコーヒーに口をつける。
そんなレイさんに胸が痛くなった。
俺が勝手に両想いだと思って、突っ走ってただけだったんだ……。
つい数時間前まで一人で喜んでいた自分が恥ずかしい。
「ふ〜ん、そう?」
カオルさんはそう言うと真剣な顔をして、なぜか俺の持っていたカップを取り上げテーブルに置いた。
「じゃあ、俺がリトに何しても別に関係ないわけだ」
「は?」
カオルさんはそう言うと、レイさんが言い返す隙も与えずに、俺の腕を掴んだ。
「んぅ……?」
気づいたときにはカオルさんにキスをされていた。
状況が飲み込めず、ピタッと固まったまま動けなくなる。カオルさんの長くて細い指が頬を縁取るように撫でてくる。そのまま優しくあごを掴まれ、段々とキスが深まっていく。
「んッ、ふ……ぁ」
ぬるりと滑り込んできた舌に上顎をくすぐられて、背筋がゾクリとした。甘やかすように口の中を愛撫され、気持ちよさに身体から力が抜けてしまう。
「ぁ…ぅン……ッ」
カオルさんの優しいキスが心地よくて、抵抗するのも忘れてうっとりと目を閉じる。
「ぐぇッ……」
いきなりシャツの襟を後ろから引っ張られて、カエルみたいな声が出た。
バランスを崩して後ろに倒れると、レイさんに受け止められる。膝枕をされているような体勢になってしまい、慌てて起き上がろうとしたら、レイさんにそれを制された。
「何だよ?」
カオルさんがニヤニヤしながらそう言って、レイさんの方を見る。俺もレイさんの顔を見ようと視線を上げると、不意に視界が暗くなった。
「お前……」
真っ暗な視界の中で、レイさんの苛立ったような低い声が聞こえた。その声にビクッと肩を震わせると、目を覆っていたレイさんの手が移動して、安心させるように頭を撫でられた。
「レ、レイさん……?」
真上にあるレイさんの顔をおずおずと見上げる。
怒ってるのかと思ったけど、目が合ったレイさんの顔は眉間にシワが寄っていて、悲しんでいるような困っているような何とも言えない顔だった。
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