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第六章「過去の香り」《1》
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【第六章:過去の香り】
ガヤガヤと賑わう薄暗い店内では、男女がそれぞれのテーブルで酒を飲み交わし、下世話な話に花を咲かせる。
「五番さん指名頂きましたー!」
「はーい!」
テーブルで好きなガールやボーイと酒を飲み、気に入った子がいれば上の階の部屋に移動して、本番行為ができる。
それが『凛ヵ館《りんかかん》』という売春宿だった。
ガールと呼ばれるΩの女たちと、ボーイと呼ばれるΩの男たち。
Ωだけが働くこの場所には、その希少なフェロモンを求めて多くの金持ちが集まった。
一般的な風俗店として明るく煌びやかな顔を持つこの店は、非人道的な行為が日常的に行われる裏の顔を持っている。
金さえ払えば、何をしても良い。
それがここのルール。
そんな凛ヵ館を経営する男に特に気に入られていたのが、レイの母親だった。
「ジュリ」
男に名前を呼ばれ、控え室で化粧をしていた彼女は静かに顔をあげた。
「指名だ」
オーナーである男の言葉に、ジュリはスッと席を立つ。艶やかな衣装に身を包み、透き通るような白い髪に真っ赤な口紅、凛とした目元が印象的な美しい女性。
誰もが彼女の美貌と彼女の放つΩの香りに、心を奪われた。
彼女は表の店には顔を出さず、金持ちの客の中でも特に権力を持つ者にだけ姿を見せ、ベッドの中で欲情の限りを尽くすことが仕事だった。
「ママ……」
客室へと向かうジュリを控え室から追ってきた子どもが呼び止める。
「レイ、私のことそう呼ばないでって何度言ったらわかるの?」
「ご、ごめんなさい……ジュリ……」
店のスタッフしか通ることを許されない廊下は、表の騒がしさが嘘のように静かだった。
「部屋から出たらダメでしょ?」
時刻はとうに深夜を回っている。眠たそうな目をした四歳ほどの子どもは、彼女の言葉に悲しげな表情を浮かべた。
「ジュリといっしょがいい……」
「わがまま言わないで。早く部屋に戻りなさい」
煌びやかで露出の多い衣装を纏った彼女は、苛立った様子でレイの前にしゃがんでみせる。
「言うことが聞けないなら、また痛いことしようか?」
レイの手を取り、その手をわざとつねるように掴み上げる。彼女の目は深く淀(よど)んだ色をしていた。
ジュリと同じ白い髪にきめ細かい肌を持つレイは、身体のあちこちに青黒いアザと赤く腫れた傷が目立つ。
「……っごめん、なさい」
レイは目にたくさんの涙を溜めながら、去っていく母親を静かに見送った。
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