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第六章「過去の香り」《15》
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──リトside──
全てを話し終えたレイさんは、長いため息を吐き出すと、喋り疲れたのかぐったりとソファの背もたれに体重をかけた。
俺は自分の頬を伝う涙を止められなくて、ボタボタと流れ落ちるそれを何度も袖で拭っていた。
レイさんの過去を知って……言葉が出ない。
俺の想像なんて遥かに及ばない。なんて悲しい人生を送ってきた人なんだろう。
「ごめ、ッ…なさい……」
簡単に俺なんかが聞いていい話じゃなかった。
泣きすぎて鼻の奥が痛い。少し経ってようやく言葉を発せるようになったのに、涙が止まらなくて何度もしゃくりあげた。
「あり、がとう……ッ話し、て…くれてッ」
途切れ途切れになりながら、震える声でやっとそれだけ言えた。泣きじゃくったみっともない顔を見られたくなくて、うつむいて何度も目元を擦る。
こんな子どもみたいに泣いていたら、レイさんに呆れられる。
「ごめんッ、俺、何も知らないくせに……レイさんのこと……好きとかッ」
レイさんの過去を知っても好きでいられる自信があるなんて、酷く思い上がった考えだった。
レイさんのことが好きだ。その気持ちは変わらない。
でも、きっとレイさんは俺みたいなガキから与えられる愛なんて求めてないんだ。
レイさんが今どんな顔をしているのかわからない。もしかしたら、また、あの冷たい目で俺を拒絶しているのかもしれない。
「でも、俺……レイさんが悪いとは思わないよ、だってレイさんはジュリって人に洗脳され、ッ」
少し落ち着いてきて、言いながらようやく顔を上げた。しかし、目に飛び込んできたレイさんの表情を見て、思わず口を噤んだ。
──笑ってる。
「レイ、さん……?」
見たことも無いような冷たい笑みだった。
レイさんの顔を見つめたまま動けなくなっていると、レイさんは堪えきれないように笑い出した。
「……ははッ! 最高だろッ、アルファの上に立ちたくてアルファとセックスして、挙句そのプレイ中に死ぬって……! どんな人生だよ! ははッ、ホントどうかしてる!」
ゲラゲラと狂ったように笑うレイさんが怖くて、身体が強ばってしまう。一瞬カオルさんを振り返ったけど、眉間にシワを寄せて、辛そうに黙ったままだった。
静かな部屋にレイさんの笑い声だけがやけに響いて不気味だった。少しして笑い疲れたのか、レイさんは「ふぅ……」と息を吐き出した。口角はまだ僅かに上がったままだ。
「……でも、俺の中にはジュリと同じ血が流れてる。鏡を見るたびに思い出す。男のモノを嬉しそうにしゃぶってたあの人の顔」
レイさんは再びソファにぐったりともたれかかると、天井を仰いで視線を彷徨わせた。
「俺も同じだ。セックスに生きてきた。そして、他のオメガを踏み台にして生き残った。……俺は幸せになるべきじゃない」
言いながら、レイさんはそれまでの笑みを消した。その顔はとても辛そうだった。
「俺のせいで死んだオメガたちが、俺を許さない。殺してくれと懇願するあの顔も、声も臭いも、いつまで経っても忘れられない」
今にも泣き出しそうな顔で話すレイさんに、俺の方が泣きそうになる。
「……俺は一生、誰かの欲のはけ口になったまま、最後はジュリのように死ぬ。そうなることを望まれてる」
まるで独り言のような力のない声だった。
「……早く楽になりたいだけなんだ」
どこか呆然とした顔で、ボソッと呟かれた言葉に胸が痛くなる。
……きっとこれが、レイさんの本音だ。
『死にたがりでホント困るよ』
オーナーがそう言って苦笑していた意味が、ようやくわかった気がする。
俺といるときはいつだって強気で、弱いところなんてないような人だった。でも、心の奥深くではレイさんはずっと苦しみと戦っていたんだ。
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