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第六章「過去の香り」《19》
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「いやぁ、一時はどうなることかと思ったけど、丸く収まって良かった良かった」
カオルさんはすっかり冷えてしまったコーヒーを飲み干しながら、安心したようにニコニコと笑った。
「そう言えば……なんでお前、あんなにリトの肩を持ったんだ? 会ったばかりだったろ」
すっかりいつもの調子に戻ったレイさんが、同じように冷めたコーヒーに口をつけながら、カオルさんに視線を向ける。
「え、良いの? 言って」
カオルさんはキョトンと目を丸くすると、何だか含みのある言い方をしてニヤッと笑った。
「は?」
それに怪訝そうに返すレイさんを見て、カオルさんはますます笑みを深める。
「まぁ、一目見て良い子そうだなって思ったってのもあるけど……。俺はねぇ、レイが好きになった子なら、信頼できると思ったんだよね」
カオルさんが俺を見る。
「……どういう意味だ?」
レイさんの言葉に、俺も同意見だった。どうしてカオルさんは、レイさんが俺を好きだってわかったんだろう。
「その様子じゃ覚えてないようだから言っちゃうけど」
カオルさんは楽しそうに目を細めると、イスの肘置きに頬杖をつき、レイさんを見た。
「白川が帰ったあと、お前をアサヒと一緒に部屋に回収しに行ったんだよ」
アサヒ……? あ、オーナーの名前か。
一人納得している間にも、カオルさんは言葉を続ける。
「そしたらレイ、うわ言のようにリトの名前を呼んでたんだよね」
「「え?」」
思わずレイさんと声が重なった。
「『リトはッ!?』って。死にそうな顔してんのは自分だってのに、俺の胸ぐら掴んで『リト……リトッ……』って取り乱してて」
一気に頭が真っ白に染まる。
「ここまで運ぶの大変だったんだぞ?」
そう続けるカオルさんを見ながら、開いた口が塞がらない。
あれ……? オーナーが俺をここに連れてきたのって……それが理由?
ようやく状況を飲み込めてくると、心臓が壊れそうなほどドキドキと暴れ出す。
無意識にレイさんの方を向くと、レイさんは耳を真っ赤にして固まっていた。それを見て、俺も一気に顔が熱くなる。
「……見るな」と、眉間にシワを寄せて俺の顔を押すレイさんに、心臓が痛いくらい締め付けられた。
ああ、俺……これから先、一生この人にドキドキさせられっぱなしなんだろうなぁ……。
カオルさんの楽しそうな笑い声を聞きながら、居心地悪そうに俺から顔を逸らすレイさんを見て、なんとなくそう思った。
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