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第七章「嫉妬の香り」《5》
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「そ、そうだけど……レイさんが返すのはおかしいじゃん……」
まるで俺が間違ってるみたいな顔をされ、つい言葉が弱くなってしまう。
「なぜ? お前はもう俺のモノなんだろ。だったら、何もおかしくない」
ピタッとレイさんの冷たい手が頬に触れる。随分と勝手なことを言われてる気がするけど、真っ直ぐに俺を見据える瞳と目が合って、何も言えなくなってしまった。
僅かに細められたレイさんの目が近づいてきて、無意識にギュッと目を閉じる。
チュッと微かに音を立てて、唇が重なった。
やわらかくて、少ししっとりとしていて、甘い。
レイさんとのキスが気持ち良くて、勝手に身体から力が抜けていく。何度も離れては触れる唇の感触に、自分が何に怒っていたのか段々わからなくなった。
「ん……ぁ…」
息継ぎの間に小さく声が漏れる。
舌が入ってくるような激しいキスじゃなくて、優しく甘やかすみたいなキス。
────ドン。
心臓が張り裂けそうで、やんわりとレイさんの胸を押した。すぐに離れていった唇に寂しさを覚えつつ、うっとりと熱に浮かされた顔を見られたくなくて、レイさんから顔を逸らした。
「借金もないし、もうボーイをやる理由もないな」
レイさんがそう言って微かに笑う。その言葉で全てを理解した。
借金が無くなれば、俺がボーイをやる理由はなくなる。全部レイさんの思惑通りというわけだ。
何だか腹が立つ。
勝手に色々進めて、俺のことなのに俺には何も相談なしだ。
「じゃあ、どうやってお金稼げっての……」
どうやって生活していくんだ……。
うつむいたまま拗ねたような口調で言えば、レイさんはキョトンとした顔でどこかに行ってしまった。すぐに戻ってきたレイさんは、俺に黒い革製の財布を差し出す。
「好きに使え。足りなかったら勝手に口座から下ろしていい」
反射的にそれを受け取ってしまい、慌てて突き返す。
「い、いらない! そういうこと言ってるんじゃないって!」
でも、レイさんはどこ吹く風。その後も何度も説明したけど、全く俺の話を聞く気がない。
ダメだ。この人、元々の考え方が俺と違いすぎる。
そうして、一時間くらいお互いに譲らず言い合った。
結局、ボーイではなく、裏方のスタッフとして男情館で働くということで話は纏まった。
ぐったりと疲弊した俺にレイさんは、「わざわざ働きたがる意味がわからない」とバカにしたような呆れ顔で言った。
その顔に思わず手が出そうになったのは、俺だけの秘密だ。
────
数日が経った。
レイさんの傷はだいぶ見えなくなり、俺のヒートも無事に終わりを迎えた。
レイさんが復帰するのに合わせて、俺は客室清掃の仕事を始めさせてもらえることになっている。
久しぶりの復帰で指名の予約が溜まっているらしいレイさんは、面倒そうにしながらも営業開始前には部屋を出て行った。
その背中をなんとも言えない気持ちで見送りつつ、レイさんがまた怪我をしませんようにと心の中で祈った。
「よろしく、リトぽん」
「よ、よろしくお願いします!」
その日の夜。
オーナーと約束していた時間に受付カウンターへ行くと、ここの制服だという白いシャツに黒いベストとズボンを渡された。
清掃スタッフの先輩は、俺より少し年上の若い男の人で、派手な金髪にジャラジャラとピアスをたくさんつけていた。ちょっと強面で怖かったけど、話してみると気さくな兄ちゃんという感じの人だった。
そして初対面から、なぜか俺を変なあだ名で呼ぶ変わった人だ。
「わからんことあったら、遠慮なく聞いてな、リトぽん!」
まぁうん、悪い人でないのはわかる。
玄関ロビーから少し廊下を進むと、注文された食事やドリンクを作る厨房と、清掃スタッフが待機する控え室がある。
今日一日、先輩と一緒に行動して仕事を教えてもらう。新しい仕事の始まりに、緊張しつつも少しワクワクしていた。
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