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第七章「嫉妬の香り」《9》
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チュッと一瞬だけ唇がぶつかる。
うわ、恥ずかしい……!
すぐに顔を離したけど、レイさんの熱を孕んだ瞳と目が合って動けなくなった。
「もう一回」
甘えるような低い声に、心臓がドクッと音を立てる。
惹き寄せられるように、また顔を近づけた。
──バタンッ。
突然の扉の開く音に驚いて顔をあげる。
「リトぽ〜ん、まだ終わらんの〜?」
入ってきた先輩とバチッと目が合った。
やば、見られたッ……!
慌ててレイさんから離れようとすると、なぜか胸ぐらを掴まれ、乱暴に引っ張られた。
「んぅッ……」
気づいた時には、レイさんとキスをしていた。
真っ白になった頭で、急いでレイさんの肩を押す。すると、余計に胸ぐらを掴む手が強くなって、挙句の果てには舌まで入ってきた。
俺がキスをギリギリで止めたせいか、不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、レイさんが無理やりキスを深めていく。
「ッ…ん、ぁ……」
先輩が見てる。すっごい見てる。
視界の端に口をあんぐりと開けた先輩を捉えながら、自分がどんどんキスに呑まれていくのがわかった。
絶対この人、先輩が入ってきたことに気づいてない…!
レイさんの肩を押していたはずの手が、だんだんとしがみつく形に変わってしまう。
どうにかやめさせる方法はないかと必死に頭を働かせていると、何を思ったのか、先輩は部屋に置いたままだった清掃道具や、使用済みのシーツ類を持ち、颯爽と部屋を出ていってしまった。
しかも、去り際、俺に向かってニカッと笑い、親指をぐっと立てて行った。
なんか気つかわれたッ…!
とろけそうな頭の片隅で、猛烈に恥ずかしさが募る。
そのあとは、完全に寝ぼけているレイさんを引きずって部屋に帰った。翌朝レイさんにめちゃめちゃ文句を言ったけど、案の定、寝ぼけていたらしく、ほとんど覚えていなかった。
────
次の日。
今日は先輩はお休みらしく、オーナーに言われて一人で清掃をしていた。もちろん他にも清掃スタッフの人はいるけど、オーナー曰く「素行に問題のあるやつが多い」らしく、今日は一人だ。
時計はあっという間に深夜をまわり、あと一時間もしないうちに、今日の仕事はおしまいだ。
静かな廊下をゆっくりと清掃カートを押して歩く。今日も慌ただしい一日だった。でも、何より気を滅入らせたのは、仕事に来る前のレイさんとの出来事だった。
昼頃に起き、俺が作った簡単なご飯を一緒に食べていた。でも、どうしてかレイさんはずっと機嫌が悪かった。
「俺がいないところで、何かあったら嫌なんだ」
「俺だってレイさんがどっかのおっさんと寝てんのヤダしっ!」
俺が清掃の仕事をするのをよく思わないレイさんと、レイさんが誰かと寝ていることにムカムカが溜まっていた俺。お互いに一歩も引かず、どんどん空気は険悪になっていった。
「今さらそんなこと言ったって仕方ないだろ」
眉間にシワを寄せ、レイさんが俺を睨む。
「レイさんには俺の気持ちなんかわかんないよーだ!」
ついムキになって、食事もそこそこに部屋にこもった。
二人してムッとしたまま、やがて指名の時間があるレイさんは、仕事へ出ていってしまった。
謝らないとなぁ……。
冷静になった頭で自分の行いを振り返る。レイさんはもうずっと、ここでボーイとして働いてる。それをよく思わないなんて、単なる俺のわがままだ。
別にレイさんに仕事を辞めてほしいとまでは思わないけど、本当は、怪我はもちろん、キスマークだって、他の人の匂いだって、つけて帰ってきてほしくはない。
レイさんは俺のことをどう思ってるんだろう。
一緒に住むようになって、一緒にいる時間が増えて、邪魔だと思われていたらどうしよう。
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