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第八章「深まる香り」《1》
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【第八章:深まる香り】
─リトside─
「ぶっはっ! ひーっ! ふははっ!」
「……笑い事じゃないんですけど」
俺の話を聞いてソファから転げ落ちていくイツキさんを見ながら、眉間にシワを寄せる。
「ひぃ…ははっ! むりッおもしろ!」
イツキさんはしばらく絨毯の上をバタバタと転がったあと、床に座ったままソファに頬杖をついて俺を見上げた。
「それで? それがその痛々しい傷なわけ?」
未だに笑いを堪えきれない様子で、イツキさんが俺の鎖骨の辺りを指差す。
そこには元々あったオーナーのキスマークの比じゃないほどの大きな鬱血痕が残っていて、所々がかさぶたになっていた。
「そうです……」
不貞腐れながら、楽しそうなイツキさんにじとーっとした視線を向ける。
「そんなに笑います……?」
着ていたスウェットの襟を引っ張って、無駄な抵抗なのは重々承知でアザを隠してみる。自分でも下を向くと目視できてしまうほど大きい傷は、どうしたって目を惹いた。
「いやだって、カオルさんの頬っぺたも凄かったけど、あのレイがッ、そんな独占欲丸出しとか……ぶッ…あははッ笑うって!!」
イツキさんはバンバンとソファを叩くと、滲んだ涙を指で拭った。
「それだけ見たら、すごいDVじゃん!」
ゲラゲラ笑いながら言われても、情けないことに何も言い返せない。
「………」
無言のままムッとしていると、イツキさんは「あーあ……」と笑い疲れたようにソファに突っ伏した。
「あいつ、確かに怒ると手が出るとこあるけど、それでも滅多に人を殴ったりしないよ。散々怒らせてる俺ですら殴られたことないもん」
イツキさんは「まぁ、物とか壁にはよく当たってるけどね」と小さく苦笑した。
「あー、まぁ最近だと殴ったって聞いたのは、本番禁止のボーイをレイプして逃げた客くらいかなぁ」
突然、イツキさんがニヤッと笑って俺を見る。
「え……?」
予想外の言葉に目を見開く。
それって……?
イツキさんはそんな俺に目を細めると、「ふふ」とまた楽しそうに笑った。
「……誰とは言わないけど。逃げた客を店に連れ戻させて、それはそれは大層なお仕置きがあったって聞いたよ」
「えぇ……」
そんな物騒な話、レイさんからは何も聞いてない。
詳しく聞きたかったけど、何だか聞くのも怖い気がして何とも言えない顔になってしまう。イツキさんはそんな俺を面白そうに見つめたあと、大きく息を吐き出した。
「そっかぁ……あのレイがねぇ……」
しみじみという感じに呟いたかと思うと、いきなりこちらを振り返って、バッと飛びかかってくる。
「凄いねぇ! リトくん!」
「わっ!?」
わしゃわしゃと犬のように頭を撫でられ、びっくりして固まる。
「ちょ、イツキさんっ」
慌てて逃げようとすると、イツキさんはまた楽しそうに笑った。
「……支えてやってよ。あいつ、俺には弱音吐かないからさ」
ボサボサになった髪を直していると、ボソッとイツキさんが言った。その声が何だか寂しそうで、思わずイツキさんの顔を見る。
でも、その時にはイツキさんは笑顔に戻っていた。
「レイは? もうすぐ帰ってくんの?」
「えっと……」
ケロッとしたイツキさんに言われて、テーブルに置いたままだった携帯を手に取る。
「……んーと、やっぱり今日は遅くなるみたいです」
言いながら、少し前に来ていた連絡にポチポチと返事を打つ。
レイさんは、今日はお昼くらいからお客さんと出かけている。夜は帰らせてもらえたらさっさと帰ってくるって言ってたけど、案の定、引き留められてしまったようだ。
『帰ってくるの待ってる! 一緒にご飯食べよ!』と返事をして、顔を上げる。時計はもうすぐ十六時になろうとしていた。
「この時期は相変わらず忙しいんだね〜」
イツキさんがそう言って、なぜか俺のスウェットをめくり上げてくる。慌てて腕でガードすると、イツキさんは一瞬だけ見えた俺のお腹に「うわ……」と小さく引いた声をあげた。
「う……やめてください……」
自分の身体に大量につけられている痕を自覚しているだけに恥ずかしい。レイさんが事あるごとにつけてくるソレがなかなか消えそうになくて、密かに困っていた。
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