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21.嵐の前の静けさ
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微睡みから目を覚ました。
そうだ、僕さっきお風呂場で気を失っちゃったんだ。よく覚えてないけどあの人の手で僕はまたイカされた気がする…。
「はぁ…」
顔を抑えながらベッドから上半身を起こし既に着ていたパジャマに気づいた。これ…あの男が着替えさせてくれたのかな。てことは当たり前だけど下着も…。いっそ、裸のままお風呂場に放置でもしてくれたら、僕は隙間なくあの人を恨めるだろう。けれど、あの人は完全に悪ではないのだ。
『早く俺のことを好きになれ。』
僕は布団をぎゅっと手で掴む。
『大事にしてやる、誰よりも大切に大事に大事に扱ってやる。だから凛人…早く、俺のものになりたいと言え』
…男の真意がわからない。
僕はあの男の言葉を素直に信じられないのだ。
信じられたとして、僕は一体どうするつもりなんだろう。僕は、あの男のことを信じたいと思っているのだろうか…。
いいやあまりいい方向に考えるのはよそう。あの男のことだ、甘い言葉を囁いて僕に罠を仕掛けているに違いない。おいでおいでと手招きをされているんだ。あの男が本当に僕を好きでも、そうでなくても、僕はあの男から抗う。素直に応じてはいけない、どのみちあの人の方法は、やり方は間違っている。それなのにそれを肯定してはいけない、ますます自分の足をどこにも動かせなくなってしまう。
僕はどのみちここで一生閉じ込められて生きていくつもりはないんだ。
ー
朝、階下へ降りるとテーブルの上に何やら置き手紙があった。
『昨日は大丈夫だったか、悪かった。行ってくる』
短いあの人の文だった。…惑わされてはいけない。一言謝られたからといって、何を少しだけ心揺れ動かされているんだろうか。僕は甘い、甘いんだ。あの男の本音かどうかなんて定かではないというのに、僕は。
…僕は。
その時、持ってきていたスマホのバイブ音がブーブーと振動と共に鳴った。
びく
開いてみてみると、ゲームの通知音だった。
(そういえば、昨日はギルド戦があった…ような。)
リビングのソファに膝を立てて座って、僕はアプリを立ち上げた。ゲームにログインすると、誰かからメッセージの通知が来た。…あ、ぽん太さんだ。
[リンさんおはよー!]
ドキ
[おはようです、ぽん太さん^^]
[俺今日もいつも通り仕事だからもう落ちるけど、会えてよかった〜]
[すみません、イベント参加したりしなかったりで…]
[いいよそんなこと。リアル優先だし、また一緒にできる時楽しんでこうよ]
…優しいな。…この人の爪の垢を煎じてあの人に飲ませたいくらいに。
[じゃ俺落ちる!また夜にね]
[はい!お仕事頑張ってください!]
[ありがとう!^^]
その後すぐ、ぽん太さんがログアウトした。僕も成人してる一応社会人のはずなのにな…。こうして仕事に行ってくる、と言われると何もしてない自分が物凄くいたたまれない気持ちになる。もしぽん太さんがこんな僕のことを知ったらどう思うかな…。情けない、て呆れられるのかな。どうして僕、こんなにぽん太さんのこと気にかけちゃうんだろ。あの人と全然違う人だからかな、普通に優しくて酷いことも言わない、良い人だからかな。
「…また、夜に会えたらいいな」
僕はそっとスマホ画面を閉じながらほんの少し微笑を浮かべた。
ー
「ただいま」
夜になっていつも通り男が帰ってきた。
「おかえりなさい」
僕はキッチンでエプロンを身につけながら玄関先にいるスーツを着た男に向かって視線を向ける。
「おう。…今日はシチュー?か」
僕の傍にそのままやってくる男に僕はシチューをかき混ぜながらええ、と頷く。
「まだ本格的な冬というわけじゃないけど最近更に冷え込んでますし」
「ラッキー、俺シチュー好きなんだ」
「…!ぼ、僕も好きです、シチュー」
「え?」
…あ!しまった、何を呑気に男の意見に賛同なんてしているんだろう。でも、だって、本当に好きだったから、…シチュー。
男に頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「嬉しいなぁお前と好みが一緒だなんて」
案の定男の表情は僕を見てニヤついたものに変わっている。…何でそんな企んだような笑顔ばっか浮かべて見てくんだろ。
「シチューなんて、みんな好きですしっ」
「そうか?風呂の前に先に食べるよ、よそってくれ」
……ち。僕はあんたの嫁か、それか家政婦か。
「はい、どうぞ」
シチューをよそって男の前に出すと、僕はぷいとそっぽを向いた。
「お前は食わないの?」
「まだお腹空いてないんで」
「そうか。…うん、美味いぞ、このシチュー」
「…そうですか」
「ああ、お前も食えよ。おかわり」
「…」
何でどきどきなんかしてるんだ、僕。この男に料理を褒められたくらいで。ちょっと嬉しい、なんて。
「今日、夜、一緒に寝ようか」
「…!?」
びくっ
「と、突然何ですかっっ」
「別に。ただお前と一緒に寝たくて」
…この人、ほんとにどこまで嘘で冗談で真実なの。
「…遠慮します。1人で寝たいので」
「冷てえなあ。俺と一緒に寝たいです、くらい言えないもんかね」
「っ!」
男の言葉にキッと思わず眉を寄せて男を見ると、男ははいはい、と言って僕をあしらった。
「わかったよ。無理強いはしない」
「…」
「怖い顔して睨むなよ。笑ってる方が可愛いのに」
…よ、余計なお世話だっつーのっ!
その時エプロンのポケットの中でゲームの通知音が鳴るのがわかった。そうだ、夜は確かイベントがある。
「やっぱり僕も食べます」
「は?あっそう」
「お風呂も貯めておくので入ってください。僕食べたら少しだけ部屋にこもります、ゲームするので」
「脳天気な奴だな〜この間は将来がどーのって心配してたくせに」
ぎく
「…じゃあ働かせてくれるんですか?」
「そういうことじゃない。俺が言いたいのは俺よりゲームが優先なのかってことだ。なんだよ、そんなにハマってるのかそのゲームに」
「…は…はい、その、とても楽しくて」
「ふーん…」
…今思ったけど、ゲームの中で親しく話してる人がいるってことをこの人が知ったら…僕、どうなるんだろ?
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