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22.ネットの彼
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ー
[やったね、勝てた^^]
[ぽん太さんさすがです、ぽん太さんのお陰…!]
[そんなことないよ笑、でもありがとうリンさん]
僕は相変わらずMMOゲームを続けていた。
[あっそろそろ落ちないと…]
スマホ画面に表示される時計を見て僕は慌てて文字を打つ。
[夕飯の準備?だっけ?]
[はい]
[敬語やめようよ!聞いていいのか分からないけどリンさん何歳?]
[22です、…だよ!]
[えっそうなんだ…!俺の方が歳下だ笑、俺20歳]
[えっ嘘!歳下だったの!?]
[うん。そっか、リンさん22歳だったんだ。]
…そうだったのか、てっきり歳上だとばかり想像していた。
[今は、結婚してるとか?]
びく
ぽん太さんのメッセージに一瞬僕は何と返そうかと躊躇った。
[結婚はしてないんだけど、ちょっと色々あって]
[そうなんだ。]
これで、僕がろくに働いてないってことバレちゃったかな…でも色々あって今働いてないのは事実だし、こう言うしか。
不安になる僕の元にぽん太さんからメッセージが来る。
[リンさんって付き合ってる人とかいるの?]
え……。それは思いがけない質問だった。僕はまた返事に躊躇った。
[いないよ^^ でも突然どうして?]
あの男と暮らしてることを彼には話せない。本当は家に閉じ込められているんだということも、あまりに複雑すぎて彼には話せない。…話したいけど、話せば結果的に彼を巻き込んでしまうことにも繋がるから。
[そっか、ううん、色々あったって言うから恋人同士の何かかと思って笑]
[笑 そういうことか、違うよ。そろそろほんとに行かなきゃだ、またね!ぽん太さん]
[うん、また後でね!]
僕はアプリを落としスマホを閉じた。
今日は土曜日。つまりあの男の仕事も休みで家にいる日ということになる。
「あっ」
ガチャ、と部屋のドアを開けると目の前に男が立っていた。…ビックリした。
「…と、透さん」
「最近よく部屋にこもるな。俺との会話は食事する時のみか?」
そう言ってじっと静かに睨みをきかせる透さんに僕は瞳を泳がす。
「あっ…ご、ごめんなさい…」
「…」
「ゆ、夕飯作りますから、…透さん何が食べたいで」
「原因はこれか?」
「……あ!」
不意を突かれて、手にしていたスマホを男に奪われた。
「毎日チェックしているつもりだが…電話でもSNSでもない何か違う方法で良からぬことしてんじゃないだろうな?」
「…良からぬことって…」
僕は背中に冷や汗を垂れ流しながら男の目を見つめ返す。
「それか、単純にゲームに夢中になってんのか、ええ?」
ビク
「…う、うん。ごめんなさい、程々にしてるつもり…」
「どこがだ!ええ?!平日の俺がいない時は一日中やっててもいいさ。けど、土日の俺が休日の時にわざわざ部屋にこもってやることか!?」
怖い、怖いよ…誰か、誰か助けて。
「こ、声が大きいよ…透さん」
「誰がそうさせてんだよ!土日はスマホを預かる。スマホを触るのを禁止させる」
「え…」
そ、そんな………。ぽん太さんは働いてる、平日週5日、この男と同じように。だから土日しかゆっくり遊べる日なんてないのに。後でね、と言ってあるのに…。
落胆する僕の肩を抱いて男が歩く。
「今日はお前の得意料理が食いたいなぁ、お前の得意料理って何だよ?なあ」
「…知らないよ」
自分がなぜこんなにガッカリしているのか。それは単にゲームをしたかったから、そうではない。僕はやっと気づいたんだ、なぜこんなにぽん太さんと話したいと思うのかを。それは、…毎日毎日僕は何処にも行けずこの人とだけこの家にずっといるからだ。僕は、恐らく彼と話すことによってこの絶望的な暮らしの中で唯一の癒しを生み出しているんだ。ほんの少しだけ前向きになれる瞬間を、僕は彼と話している中で見つけ出していたんだ。
僕は、もっと色んな人と話したい。色んな人と、すれ違ったり、色んな景色を見たい。
僕は隣を歩く笑う男の顔をちら、と見る。…それはここにずっといて見られるものではない。僕だって、もっと色んなこと知りたい、色んなこと体験してみたいよ。
ー
[ぽん太さん、昨日はごめん。急用ができちゃって…]
[そんなこと気にしてないよ。遊べる時遊ぼうよ]
後日、平日の朝僕はぽん太さんにそうメッセージを送った。…よかった、本当にぽん太さんは優しいな。
[そういえば、ぽん太さんってギルドの人達からえいすけって呼ばれてるよね?]
[あっw うん、ちょっと下の名前バレちゃってさw]
[そうなんだ笑 えいすけって呼んでもいい?]
[えっ]
[あ、ダメだった?ごめんね…]
[違うよ!全然いいよ、呼んで呼んで^^]
[じゃあ、えいすけくん笑 これからもよろしくね]
[こちらこそ!また会える時遊ぼう、リンさん]
ぽん太さんはそれから仕事に行くためログアウトした。僕もアプリを閉じ、スマホを机の上に置きふうと1度息を着いた。
…また、今日が始まるのか。何の変哲もない、今日が。
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