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24.見えない支配
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…まずい。僕、なんてことをこの人に伝えてしまったんだろう。あなたが本当に優しい人だったら…なんて、それは裏を返せばあなたが怖い人だと、酷い人だからと…言っている証拠。
………怒っ、た…?
涙で瞳と頬を濡らす僕を、正面に座る透さんが見つめる。
「……そろそろ出よう」
ガタッと音を立てて席を立つ透さんに僕はビクッと体を反射的に揺らす。
「行くぞ」
「…っ!いった…」
僕がすぐに席を立たなかったからか、透さんに腕を強く掴まれて無理矢理席を立たされた。
「会計を」
僕の腕を掴んだまま左胸ポケットからサッとカードを取り出す男を隣で僕は悔やんだ顔で睨みつける。…ほら、やっぱり。この人は僕のことなんか愛しちゃいない。…痛い、痛いよっっ!どうして僕の腕をそんなに必要以上の力で掴むのっ!?…どうにかしてこの人が性悪人間だってバレないかな、僕はこの人に捕まってるんだよ、ねえ、誰か気づいて。
…あ、今目の前にいる店員さんだ。この人に気づいてもらえないかな、僕が、この男に自由を拘束されていること…。
「……?」
はっ……
じっと見ていると、男の会計を終えた店員の人とばちりと目が合った。不思議そうな顔をして僕を見ている。
「…何かご用ですか?」
「………ぁ」
だめ、……こ、声が……出な…ー
「何でもないです。すみません、失礼します」
固まる僕の背中を優しく押して、外用の柔らかな声を出して男が言った。
…っ!まって…!僕どうして、大声を出せないのっ?でも出したところで、誰が僕のことを信じるのだろう?そうとも思う。この人にきっとすぐ今みたいに丸く収められる、でも、だけど、…まって!まって!気づいてよ!あなたからしたら、僕達はそんなに違和感のない2人だったの…っ?ねえどうして、僕泣いてるんだよ、まさか僕達のことを恋人同士だとでも思っているのっ?痴話喧嘩だとでも思っているの…っ!?
「…っあ!」
男に腕を引っ張られてそのまま車の後部座席に体を投げ込まれた。……痛い、…信じられない…これが結婚しようと言った相手にする行動…?
「…とおるさ」
無言で運転席につきハンドルを握る男に向かって僕が声をかけようとした時、突然キュルルル!という激しいタイヤの音とともに車が猛スピードでどこかに向かって走り出した。
…な、なに!?…何!!?突然なにっ!?
「…や、やめて!」
怖い、怖い……!夜道なのになんてスピードを出すの…っ?
「と、透さんっっ…!」
「……」
「や、やめて!事故するよっ!…嫌だっっ、お願いやめて!…やめてよーっ!」
ー
凛人、そう呼ばれる声に僕は目を覚ました。僕はどうやら、先ほどのショックで気を失っていたらしい。
「……透さ…」
そう言いながら、車の後部座席のドアを開け手を差し出してくる透さんの手を僕は掴もうとして、ハッとするようにその手をはじいた。
「……何する」
夜の背景をバックに怖い透さんの顔が視界に映る。……まって、ここ、どこ…?体を起こし車の中できょろきょろと辺りを見回すと、どうやらここはどこかのホテルの前だということがわかった。
「ほら早くしろ」
「…!やっっ!!」
再び差し出される透さんの手をはじく。すると、ゾクリとするような顔で透さんが僕を見つめていた。
「…あまり駄々をこねるな。後が怖いぞ」
ビクッ
神様……どうか神様……。
僕は男の言う通り車から素直に降りた。男に肩を抱かれて歩きながらホテル内へと入った。
「入れ」
部屋のドアを開けると、男は僕の背中をどんっと部屋に向かって押しながら言った。僕は驚いて目を開きながら躓きかける足で部屋の中へ入った。そこはとても広い部屋だった。そうしてふと左に目をやった時、枕が2つならんだ大きなベッドが置かれていた。
…ダブル、ベッド…。
「俺疲れたから先にシャワー浴びる。」
男はネクタイを外してそう言うと僕に目を向けることなく浴室へと向かった。
…疲れたからって、なんだよ…。疲れたのは、こっちだ…。やっぱり僕、この人が怖いよ。僕、やっぱりこの人から逃げなきゃいけないんだ。一刻も早く…。それなのに、一体ここはどこなの?窓の外を見てみてもどこだか全く分からない。…何だか死のうとしたあの日を思い出す。僕、あの頃から何も変わっちゃいないんだ…。僕も、あの男も…。
僕は首輪を外されても、見えないあの男の持つ鎖のついた首輪に今も支配され続けている…。
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