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26.忘れかけた恐怖
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シャッと開くカーテンの音と外から入る陽の光で目が覚めた。
「ん…」
もう朝…。目を擦りながら体を起こすと、傍に既に私服に着替えた透さんがこちらを見ていた。
…はっ!
「おはよう。」
「…おはようござ…」
「お前もとっとと着替えろ。下でやってる朝食くいに行くぞ」
「は、はい」
いつも通りキビキビとして動く男を見て、僕はふわぁと出そうな欠伸を飲み込んだ。よくわかんないけど、意味もなく怒られそうな気がしたから。…はあ、それにしても全然寝れなかったな。この人はどうやらいつも通り寝られたみたいだけど。
「そこに下着と服置いてあるから、それに着替えろよ」
「あっはい」
…いつの間に下着と服を用意してたの。もしかして、初めからここに泊まる予定だったのかな。
「早くしろ」
「…!は、はいっっ」
もうー!せっかちなんだからさぁ…っっ!!
ー
「卵と海老もあるぞ。お前好きだろ」
「…う、うん…」
朝食はどうやらバイキング形式のようだった。周りは家族連れやカップル、友達同士と様々に割と人がいた。
それにしても…
「ほら、パンもある」
「あ、ありがとう」
「コンソメスープもあるぞ、入れとこうか」
「…よ、よろしくお願いします」
…なんか、気持ち悪いくらいこの男が僕に対して優しいッッ!!一体どういう風の吹き回しだ…。
一通り取り終わって席に着くと、同じく席にやってきた男にスっとオレンジジュースを渡される。
「ほら」
「…あ、ありがとう…ございます」
そうしてカタン、と僕の正面の席に着く男に僕は首を傾げる。わかんないなぁ…。すると、周囲からボソボソと聞こえる小声を耳にキャッチした。
「…見て、あそこの席の人、かっこい〜…」
…まさか、透さんのことか?そうか、この人確かに見た目だけはいいから。中身は最悪だけど…。
「一緒にいる子誰かな、さっきあのかっこいい人、あの子にパンとか渡してあげるの見ちゃったっ、カッコいい上に優しいんだねっ」
…うわー…まってまって違う違う全然違う、お姉さんすごい誤解してるから。これは今この瞬間だけのこの人の気まぐれ、それか何かの罠だからっ。たく見た目のいい男って厄介…
「凛人」
「!わっ!」
「何違うことに思考働かせてんだ」
周囲の声に耳をすませていたら、いきなり透さんにぐいっと顎を掴まれて引き寄せられた。び、ビックリしたなぁもう…っっ!僕は思考すらあんたに縛られるのかよっ!
「…は、離して下さいっ」
バシッと男の手をはじき眉を寄せると、透さんが静かに怒った顔をして僕を見ていた。
…ビク
また、…そんな顔で僕を見るんだ。
「ぼ、僕、追加で何か取ってきます!」
「!凛人」
男から逃れるように僕は皿を手にバイキングコーナーへと駆け足で向かった。それにしても、僕ほんとにこんなとこで何してんだろ…。これじゃあの人とただの1泊旅行でもしてるみたいだ。昨夜だって何も酷いことはされなかったし…。今日はやけに優しいし、あの人、今度は何を企んで…
「…あっ」
そうしてふと唐揚げを取ろうとトングに手を伸ばした時、同時に手を伸ばしたらしい隣にいた人と手が当たって微かに声を漏らした。
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ。お先にどうぞ」
「…は、はい、ありがとうございます」
僕はせかせかと唐揚げを皿に取ると、トングを隣にいた男性に渡した。
「ありがとう」
彼にぺこ、と僕は軽く頭を下げると自分の席に戻った。ふう、ビックリした…透さんと以外誰かと話すのなんてずっとしていなかったから。僕、変じゃなかったかな?
すると、箸を持つ僕を正面に座る透さんがふととてもこわい目付きで睨んでいた。え…何…?
「誰だ今の男」
「…え?」
「笑いあって2人で話してたろ。何話してたんだ」
……え?僕は怖い顔をする透さんを見て箸を持つ手を震わせる。
「…何って、別に話すようなことでも…」
「話せないのか?俺に」
少し声の大きくなる感情的な男の様子に、ちらほらとこちらに向かって周りの視線が向けられるのが分かる。いやだ、こんな人の多いところで…やめてよ。やめてよ…っ!
「だ、だから、話すようなことでもないって言うのは、大した話なんてしてないからって意味だよっ、そんな大きな声出さないでよっ」
痴話喧嘩をしているようで、恥ずかしくて耳が赤くなる。
「本当か?本当なんだな?」
「…っ、ほ、本当だよっっ、嘘だと思うならさっきの人に聞いてみてよっ」
「……。そうか、ならいい」
透さんはすると、何事も無かったかのように食事を再開した。一体何だったの、今のは…。この人の嫉妬…?でも、たったあれだけの事で?あれだけであんなに怖い顔をするの?この人は…。
「凛人」
ビクッ
「美味いな、お前もこれ食ってみろ」
「……う、うん…」
…この人の優しさに僕はまたすぐこの人の怖さを忘れてしまう。そしてすぐ思い出させられるんだ。この人はとても恐ろしい人なんだ……。たまに優しくて、良い人なのかもしれないと錯覚しても、それは上辺だけに過ぎないんだ。いつ、この人が激昴を引き起こすか分からない。最近忘れかけていたけど、警戒心を常に持たなきゃ…僕はこの人に……。
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