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41.夜の訪問者
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「僕、数年前両親が事故で死んだんだ」
「……え?」
結局あれから永祐くんが淹れてくれたココアのコップを、僕は両手で握りながら目を伏せて話し出した。
「僕はその時大学生だった。でも、その日から僕は大学を中退して、会社に就職して働くようになった」
「…」
「僕には両親しかいなかった。親戚もいなかったし、兄弟もいなくて。だから2人が亡くなった時、正直挫折しかけた」
「…うん」
「でも、頑張ろうと思ってた、その時は。だけど…」
〝お前を雇ってやったのは俺だぞ、親も金も無いんだろう?生きたければ、俺の言うことを全て聞くんだ。お前みたいなやつを雇ってくれるところなんか、他に何処にも無いんだから〟
「…リンさん?」
「……っ…。…ううん、ごめん。ちょっと、運の悪い会社に入っちゃって」
「…え?」
「何でもない。それでね、僕はある時ついに生きる希望を無くしちゃってね、自殺しようとしたんだ。」
「えっ?…自殺…?」
「うん。だけど皮肉にもそれを助けてくれたのが、あの人だったんだ。」
「…あの人って、まさか……あの男…?」
眉を寄せ、瞳を大きくする彼に僕は頭を縦に頷かせる。
「そう。あの人はね、それから僕をあの家に閉じ込めた。僕は首輪を嵌められ、反抗すればあの人に叩かれた」
「……っそんな…」
「でも、あんなちょっとしたことですぐ死のうとした自分自身への天罰なのかなと…たまに思う時もあるんだ。」
僕は力なく笑った。
そうだ、何があっても死を選んではいけない。どんなに辛いことがあろうと、生きなければ。そう思えば、僕がこれまであの人から受けた痛みや苦しさも、もしかしたら…受けるべきして受けるものだったのかもしれない、と。
「…ちょっとしたことなんかじゃない」
隣に座る永祐くんが僅かに体を震わせながら言う。
「え?」
「俺には両親がいる。口煩い姉もいて、職場にも幸い恵まれてる。…だけどそれは、当たり前のことだと思ってた」
「…」
「俺だって……誰だってそんなことが起きたら耐えられないよ。」
「…永祐くん」
「だけどリンさん、リンさんはあんな男の傍にいるべきじゃない。俺、あの男より多分金はないし家もこんなで…だけど、自慢じゃないけど貯金はかなりある方だと思ってるし、俺、リンさんの為に一軒家だって買っていいよ」
え……。
僕を見つめる真剣な彼の視線に僕は目を瞬かせた。一軒家?
「……ぷっ」
「!な、何で笑うっ!?…俺、真剣なんですけど…」
年相応のむくれたような顔をする永祐くんを見て、僕は気持ちが温かくなる。ああ、こういう感覚、…いつぶりかな。いつもいつも僕の心は冷めきって、あの人に抱く感情すらも飲み込まれていた。ここは、温かい。
「永祐くんは、優しいね。」
「えっっ」
「…あの人も、君みたいに優しい人だったらどんなに良かっただろう」
思わず口から出た、自分の中にある無意識の願いの言葉。僕はまだこんなことをあの人に願って…。数ヶ月あの人と共に暮らした影響はそれなりに大きいらしい。
「リンさん、…まさかあの人のこと…」
「え?」
「……いや、何でもないよ。」
どんどん、外の暗さが深く濃くなっていく。
部屋の窓から見える景色は、真っ暗な闇のよう。
…そして、どこからかともなく、僕の耳に声が聞こえる。あの人がやってくる音が聞こえる。
〝凛人〟
あの人が近づいている音が聞こえる。…行かなきゃ。ここを出なきゃ。
「そろそろ僕、行くよ」
腰を上げ、立ち上がりそう言って部屋を出ようとした僕の腕を、永祐くんが掴む。
「……何言ってるんだよ…、リンさん…」
僕は永祐くんから目を逸らす。
「永祐くん本当にありがとう。色々話せてよかった」
「なんだよそれ…リンさん、ここにいて。少しの間だけでいいから、そしたら、俺リンさんが住めるくらいの部屋契約して」
「永祐くん、無理しないで」
「っ別に無理なんかじゃない!俺は…っ」
「君にそんなこと頼めないよ、それに、これは僕とあの人の問題だよ」
永祐くんの僕の腕を掴む力が緩む。
「…ごめん。元気でね」
「……っ……まって、…リンさんお願いだっ!待っー」
僕は永祐くんの制止を押し切って、部屋のドアを開けた、その時。
「凛人」
……!
ドアを開けたその先に立っていたのは、僕を見る透さんの姿だった。
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