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44.浮つく気持ち、油断
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その頃、街にいる人たちは皆少し浮き足立って見えた。どこからともなく聞こえてくるオシャレなメロディに、周りの人達は皆寒さも忘れたかのように白い息を口から吐き出しながらもその顔には笑みが浮かんでいる。
クリスマスが近いのだ。
「ほら」
僕と男は、その時、そこそこ綺麗で有名なイルミネーションを見に毎年たくさんのカップルがやってくるという場所に訪れていた。…いやそもそもこの男とは恋人でも何でもないんだけど。
「…あり、がとう」
途中で見つけた休憩所のとこのような場所にあったベンチに腰掛ける僕の前まで男がやってきて、スっとホットミルクティを渡してくるそれに不本意ながらも僕はお礼を言う。
男が買ってくれたマフラーを首に巻きながら僕は男のくれたホットミルクティを両手で握りはあ、と白い息を吐く。
「綺麗だな」
「えっ、…う、うん」
隣にドサッと腰掛け、俳優顔負けの顔面で真顔で突然そう言う男に僕はドキンとしながら相槌を打つ。…いや、べ、別にっ、相槌なんか打ってやる必要なんかないけどさっっ!無視したら無視したで、この人何してくるか分かんないもん。周りに人も今結構いるし…無駄に目立つようなことはやりたくないのだ。
それにしても、…カップルばっかりだ。
「体調平気か」
「えっ」
横から向けられる男の視線に気づき振り向くと、じっと男の鋭い目が、驚いて目を開ける僕を見つめる。
「…あ、ああ、1週間ぶりの外出だから、体がなまって変な感じだよ。ずっと家にいたのに今日は突然それなりに歩いてるし、体がおかしくなるかもね」
少々の皮肉を混じえながら僕がそう言うと、そうか…と男が言いながら目線を落とし何か考えるような表情をする。…え?てっきり、はっ、とかふっ、とか言って、いつものように鼻で笑ってあしらわれるものだとばかり思っていたが。
ゴクリ、と男の買ってくれたミルクティを口にしそっと口から離す僕に男が再び視線を向け、僕はその男の真剣な目に金縛りにあったかのように男に目を向けたまま、固まって動けなくなる。
「…凛人、約束できるか」
「……え?」
浮ついた人だらけの中で、そうふと低音の真面目な声で発する男に僕は大きくなった瞳を僅かに揺らし見つめる。
「お前が俺から逃げないと、必ず俺の家に帰ってくると約束できるなら、…たまの外出を許してやってもいい」
「…!?」
な、…なんで、一体どういう風の吹き回しだ?これは。じっと男の顔を真意を探るようにしばらく見つめていると、なんだよ、と言いながら男の眉間にシワが寄った。
「だって」
「俺だって別に、お前を意思のない返事するだけの人形にしたいわけじゃないんだぜ。わかってると思うけど」
…いやあんたはそうしたいんだろうとばかり思ってたわずっとっっ…!!!
「お前の小生意気な反抗もお前のたまに見せる素直な笑顔も、俺は失いたくない」
「…!」
なんか、だんだん恥ずかしくなってきたんだけど…何なのこの人。…よく真顔でそんなことが言えるな。
「お前に体を壊されたら元も子もない。お前を外に出したくないが、普通の生活をさせることもそろそろ考えた方がいいかと思ってな」
「…透さん」
…あなたが僕の身を案じてくれてるなんて思ってもみなかったよ。そうだよ、僕もう2ヶ月以上あの家に透さんとの用事以外毎日ずっと閉じ込められてるんだよ、このまま続けば絶対僕の精神状態も、体も、おかしくなる。……だけどまさか、外出をこの人自ら許可してくれるなんて思ってなかったけど。
「俺、ちょっとトイレ」
手にしていたコーヒーの缶を軽く潰すように握りながら透さんが席を立つ。
「う、うん。」
少々どぎまぎとしながら返事をする僕の方に、1度背を向けた透さんが再びこちらに振り向き、僕の頭に手を置いた。
な、なに…?
「……逃げるなよ」
「…!」
透さんは釘を刺すように僕を見て言うと、僕の頭から手を離し、向こうへとひとり歩いていった。
僕ってばおかしい。透さんに逃げるな、とそう言われるまで少しもこの人から逃げようという気がなかった自分に気づいたんだ。確かにここは車で透さんに連れてこられた遠いところだし、だから逃げようもないというのもあるが、少しも頭に浮かばなかったなんて。それにほんとに逃げたかったら、知らない土地だろうが今すぐここで僕はこの場から、あの男から、走って逃れている。
…僕…今…もしかしてあの人の傍にいて、安心している……?
だって少しも今恐怖心を感じない。こんな夜だから?クリスマスだから?イルミネーションのせい?
僕…本当はあの人のこと、一体どう思っているの?
「可愛い子はっけ〜ん」
ビク
思いに耽っていたその時、傍でそんな声が聞こえて顔を上げた。…だ、誰だ?僕の周りに知らない男たちが数人群がるように立っていた。
「うわほんとに可愛い!」
「俺タイプ!ねえねえ君ひとり?こんな恋人ばっかのとこに1人で来てるなんて寂しいよね?」
…なんかすごく大変な誤解をされている気がする…。
男が2人、僕の両サイドにどかっと腰を下ろし、僕の肩に腕を回してくる。……き、気持ち悪い……っっ!体を密着させてくんなっっ!
「ん〜甘い匂いがする、俺ほんとに君タイプだなぁ〜」
「…っ」
知るか……!!
「あれ、もしかして手震えてる?大丈夫、俺ら優しいよ?」
そう言って見知らぬ男にぎゅっと膝の上に置いた手を握られる。ひいぃっっ。
「そうそ、いきなりホテルなんて連れてかないから。最初はみんなで仲良くお話して、君の緊張も解してあげるから。その後はもちろん分かるよね?」
耳傍で囁いてくる男の声に、僕は全身の身の毛がよだつのを感じる。きもいきもいまじできもい…!!くっそう…っどいつもこいつも男って…!いや僕も男だけど絶対こいつらみたいにキモくはないっっ!
顔を近づけてくる男に必死で顔を逸らして耐えていると、傍に立っている男がおい、と言って僕の隣に座る男に何かを合図するような仕草をした。……なに…?
「それじゃ、行こっか俺たちと」
「…!」
突然僕の両腕を両サイドに座っていた男たちががしっと掴んでその場を立ち上がる。そのままどこかに向かって僕を連れて歩きだす男たちに僕は顔を真っ青にさせる。
!?まてまて、…待てっ!!
一体どこに……っ!?
「はあ、俺やっぱり今すぐここでこの子犯したい」
「!」
人のいないところまで来ると、ふいにする、と隣に立つ男にお尻を触られて声も出ない僕。…どうしよう、怖い。
「馬鹿、よせって。俺だって早くヤリたいけど」
今度は前にいた男に薄笑いを浮かべられながら頬を手で撫でられた。……気持ち悪い、…吐き気がする。…何なんだこいつら…。
「早く味わいたい…。後でたっぷり君の可愛い声を聞かせてね」
腰に手を回されるそれに、僕は気持ち悪さで体が震える。…いや違う。気持ち悪いだけじゃない。……怖い……。
僕は灯りのある場所とは反対の方向へと、男たちに連れられて行くのだった。
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