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45.正義か悪か
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「…離せっ、はなせ…!」
男たちに周りに灯りひとつないところまで連れられた僕は、ようやく震える声で何とかそう声を出し男たちに抵抗する。このままじゃ本当にまずい予感がする…どうにかしないと。
「おいおい、急に暴れるなって。乱暴な言葉使っちゃって」
両手を後ろに回されていた僕の耳元で笑うように男が囁く。…このっっ、まだ分かんねえのかこいつらはっ!!
「僕は…っ男だ……っ!」
そう声を上げながら僕の腕を掴む男たちから僕は体を強く動かし、逃れる。はぁはぁと、久々に消耗したエネルギーに僕は息を上げながら目の前の男たちを睨む。…まずい、毎日毎日あの家に閉じこもりっきりだったから、驚くほど体力がなくなっている。男の手から逃れるだけで息がこんなにも荒い。
「…な……っ…おとこ…?」
「おいまじかよ、萎えた〜」
落胆の声を口々にあげる男たちに僕はよっしと内心ガッツポーズをする。よかった、この人たちが男もいける人たちではなくて…。
そう安堵し切っていたそのとき、
「え〜でも、俺は男だとしてもこの子味わってみたいけどなぁ」
…!!
後ろから男に回された手で口を塞がれ、僕は目を大きく開く。
「えー、でも男だぜ?アレついてんだぜ?」
「けど男にだって入れられるアナはある。この顔で泣かれたら、想像しただけでイケる」
口を塞ぐ男の声に僕は冷や汗を背中から垂れ流す。…この変態男っっ。しかし、周りの他の男たちは僕にもう興味はないはず…だったら、こいつ1人だけをどうにかすればいいのか。それならまだいける気がする、…僕のまだある体力的にも。
しかし、ふと辺りを見回すと、落胆していたはずの男たちが僕に歩み寄ってくる。……な、なんで…!?
「ふーん…まあ確かにそう言われれば」
「…っ!?」
「男だって思わなければイケるか。案外」
な、何でそうなる…!?
「残念だったな、お前」
「っ!」
口を塞いでいた男が僕から手を離し、ニヤついた口元を僕にそのまま当てようとしてくる。……っっ嫌だ!!!僕は男から顔を横に背ける。…絶対に触れさせたくない。
「嫌われてるなぁお前」
「あっはっはっ、ウケる」
笑う男たちの声を聴きながら、僕は顔に影を落とす。…僕はいつだってこういう運命だ。物心ついた時からよく同性相手に好意を寄せられ、セクハラまがいのことを何度も受けてきた。もう今はそういう運命なのだと自分自身を納得させ受け入れるしかない。昔はずっと、そんな自分に知らないふりをし続けていた。そうしないと、僕は前を向いて生きていけなかったから…。
誰も彼もが僕を同じような顔をして見、地獄へ突き落とそうとする。それは何度あったか分からない。
…でも、大人しく黙って相手にされるがままなのは、僕の中にあるプライドが許さない。僕は、1度死んだ。
僕は、もう一度今、ここに生きている。
「おいどうした?急に黙って。怖くなっちゃった?」
「……」
「男に犯されるなんてなー。あっはっはっはっ」
いいさ、僕はいつだって弱者なんだ。無力で、甘ったれで、…ろくでなしで、不運で。だけど、…だけど僕は、こんな奴らに屈したりなんてしない!
「…な、何だよその目…」
「おい、ちゃんとそいつの手掴んでるか?早く車に行こうぜ、そいつ暴れ出しそうだぜ」
すぐに口を手で再び塞がれ、2人がかりで体を抑え込まれる。
「…んんんっ!」
塞がれた口で声を上げる。いいや、大声を上げたところでさほど意味などない。僕は今完全に体が弱りきっている。僕の今の大声などたかが知れている。畜生…、まだ相手が1人なら…っっ。
体を必死で動かす僕の髪を突然前にいた男に掴まれ、無理やり顔を上に上げさせられる。
いった……っっ…
「いい加減諦めろよ、しつけーな」
「……っ…」
「そんな女みたいな面して睨まれても怖くも何ともねーんだよ、大人しくしてれば痛いようにはしねぇ」
僕は口を塞がれたまま、髪を掴む男を依然として睨み続ける。
「…へーえ、それがお前の答えかよ。哀れだな、お前みたいなのを見てると」
嘲笑うかのような男の口角のあがった口元と、その言葉に、胸に針が突き刺さったような鋭い痛みが走る。
「どうした?」
「……」
「泣きそうだな。そうだ、泣け。泣いて可愛く縋れ、やめてくださいと懇願しろ」
目の前が真っ暗になる。いや、そもそもここから見える景色は実際辺り一面真っ暗だ。…やめてください、か。
…あの人のことを頭に思い出す。あの人は怖い。ここにいる奴らより何倍も、何十倍も、あの人はずっと怖かった。
…でも、…優しかった。なぜ、こんなことを思うのか、僕にも分からない。
あの人は怖い。でも、僕に服を買ってくれた。僕を看病してくれた。僕に笑いかけてくれた。…性格は悪いけど、でも、すぐ手が出るし死ぬほど怖い時もあるけど、でも…
「ほら言えよ」
ただひとつ分かることは、この人たちとあの人は全く別なんだということー。何故こんなことを思うのか…?でも、分かるよ。バカな僕にだって。…これもあなたと過ごした時間が、無意識に僕にそう思わせているんだろうか?これもあの人の、洗脳なのだろうか?
分からない。けれど、頭の中で誰かが僕に言う。
あの人は、悪では無いのだと…ー
「………やめてく」
「凛人」
ーー暗闇の中で、あの人の声がした。
僕は耳を疑った。恐る恐る目線を向こう側に向ける。
そこには、僕を見つめる透さんの姿があった。
「……」
「逃げるなって言っただろ」
透さんがこちらに表情一つ変えずに歩み寄ってくる。
「俺がどれだけ探したか」
「……」
透さんが僕に向かって手を伸ばした時、髪を掴んでいた男が僕から手を離し透さんに体を向ける。
「…お、おいあんた…一体どこの誰だよ?急に出てきて。状況見て分かんねえのか、余所者はとっとと失せろ」
そう言って透さんの体に触れようとした男が、突然透さんに殴られてその場に倒れ込んだ。
…て、…殴!?
「……へーえ俺が余所者か…なるほどねぇ。人のものに勝手に手出してこんな暗い人気のない場所で一体何しようとしてたんだ?俺気になるなぁ」
「…人のもの?って…まさか」
「おいおい、何突然そいつから手離して逃げようとしてんだよ腰抜け野郎ども。ほら来いよ、こっちはひとりなんだぜ」
透さん…何でこの人たちを挑発してるの?
いつの間にか男の手から解放された僕は、その場に突っ立ったまま透さんにじりじりと群がる男たちの姿を見る。
まずい、相手の人数は少なくとも5人以上はいる…。透さん、囲まれてしまった…。透さんが、殴られるっ?
男の1人がぶんっと透さんに拳を向けた。ーっ、僕はそれに思わず目を瞑る。嫌だ、僕なんでこんなに、胸が苦しいんだ…ーーっ?
「…よし。」
しかし、後に聞こえたのは透さんのそんな声だった。恐る恐る目を開けてみると、透さんが男の拳を涼しい顔して片手で受け止めていた。
!!?!?な、…何なんだこいつ…!?
「これで俺がこれからお前らに何しようが正当防衛ってわけだ。」
透さんがいつもの悪魔のような怖い顔を通り越した、それはそれはもう大魔王が降臨したかのような恐ろしいオーラと表情で男たちに向かって言い放った。僕はそれを見て改めて思った。やはりこの人以上に怖いものはないのだ、…と。
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