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52.隠し事
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「ただいま」
窓の外から見える景色が辺り一面暗くなった頃、透さんが帰ってきた。
「おかえり、なさい」
ああ、何だかさっきの今でどういう態度したらいいのか調子狂うなぁ…。
「もう起きてて平気なのか」
靴を脱ぎ上着を脱ぎながら僕の方にやってくる透さんに向かって、僕は視線を向けながらうん…と曖昧に答える。
「暇だったから鍋作ってました。豆乳鍋」
「へーえ。」
「あなたが好きかどうかなんて知りませんけど」
机の上の鍋置き台に鍋を置き、僕はぷい、と顔を背けて言う。
「すきだよ。つぅか外寒かったからさ、全身氷みたいに冷たくってさ」
「…そんなこと知らな」
!!
「だから凛人体あっためてよ」
傍に立っていた透さんの腕の中に僕は突然体を包まれる。
なっっ……、
僕は目を開いてそれに体を動かし抗議する。
「ちょ…っやめてよ!」
ぐっと透さんの胸板を押して何とか脱出した僕は、目の前でつまらなそうな顔をして僕を見る透さんを見る。…な、なんだよその顔、まるで僕が悪いみたいに…。
「あーあ腹減った〜」
すると、僕から目を逸らし食卓の椅子にどかっと腰を下ろす透さんに僕は少々不機嫌な顔をする。今に始まったことじゃないけど、ほんとこの人って自由人なんだからさっっ。ああいけないいけない、一々こんな小さなことでキレてたら僕の体力が持たない。無視だ無視、こんな人。
「……」
「……」
それから2人してしばらく無言で鍋をパクパクと食べていたが、僕はふとさっき噛んだ透さんの手に残る傷跡を見て、ほんの少し気まずげに目を逸らす。
ていうか…今冷静になってよく考えてみたら、この悪魔みたいに恐ろしい人に噛み付くなんて僕も馬鹿なことしたなぁ…。仕返しされなくて良かった、心から。
「…さっき、どこ行ってたの」
「は?」
パクパクとご飯を口にしながら僕は尋ねる。
「なんだよ、それ」
「?なんだよって、何が?」
「それは俺に、興味が湧いてきたってことか?と聞いてる」
口端をあげニヤついた顔をする男に、僕は箸を口にしながらム、と眉を寄せる。
「別にそんなんじゃないよ、単純に聞いただけ」
「ふーん…。お前がそんなこと聞いてくるなんて初めてだったから、そういう意味かと思ったのに違ったか」
透さんはそう言いながらニヤついた口元をなくし、どこか視線を下に落としたように見えた。
…?
「別に、ちょっと用があっただけだ。お前にわざわざ話すようなことじゃない」
すました顔をしてそう言う透さんに、僕は何故かカチンとくる。僕に言うようなことじゃない…?よく分からないけど、すごいムカつく…!何さ!
こんな些細な質問にくらいすっと答えてくれたっていいじゃん!それとも、何か言えないようなことをしてきたって言うのか?僕を好きだとか愛してるって言う割に隠し事なんてしてさ…!意味わかんないよこの人…!まあ今に始まったことじゃないんだけどさ…!
「あっそうっっ、じゃあもういいです」
もしかして、女の人のとこにでも行ってたんじゃないのか、ああそれか、別の部屋に僕みたいに監禁してる人がいるのかもしれない。それにこの人に愛人が複数いたって不思議じゃない。じゃあ僕って一体この人の何なんだ…好きだって言葉も全部嘘だったのか?
「おい凛人、なんかお前ぷりぷりしてないか?なんだ、カルシウム不足か?」
「っ」
再び口元をニヤつかせながら僕に向かって伸ばしてくる透さんの手を、僕はバシッと振り払い睨む。
「触んないでよっ!」
すると、透さんが睨みつける僕を見てほんの少し目を大きくさせ驚くような顔をする。
「なんだよ、急にキレて」
怪訝げに息をつき、机の上に頬杖をつく透さん。
…ああそうだよ、僕何でこんなこと気づけなかったんだろ。この人が僕のことを本当に心から愛してるわけなんてないのに。
…僕はこの人のオモチャだ。僕は遊ばれてるんだ。僕はただの、この人の奴隷だ。僕が死ぬまで、この人が死ぬまで、僕は一生…。
「…っ」
「……!おい!凛人!」
席を立ち、バタバタと自分の部屋に駆けていく僕を後ろから透さんが大声を上げて呼ぶ。
僕、何してるんだろう。
僕は電気もつけずに真っ暗な部屋の中で布団を体に巻き付けて瞳から静かに涙を流して泣いていた。
別に最初から信じてなかったよ、あの人が僕を好きだなんて言葉…。あの人に好かれたっていい迷惑でしかないんだ、僕だって別にあの人のことを好きなわけじゃない。だからあの人が僕以外の人に僕にしてるみたいに抱いてたって、愛を囁いてたって、僕は別に……
「…うっ…ぅ…」
……全然悲しくなんてないんだから。
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