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53.好きなわけじゃない
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「よお、ただいま」
次の日、仕事に行っていた透さんが夜帰ってきた。
「…おかえり」
少々むすっとしながら僕はそれに応える。
「なんだ、まだむくれてんのか?」
上着を脱ぎながら首元まで締まるネクタイを指で緩める透さんが僕を見て息をつくように言う。
「いい加減話せよ。何怒ってんだお前昨日の夜から」
「別に何でもないよ、そこまで気にもなってないくせにさ」
食卓の椅子に手をついて、唇を尖らせてそっぽを向きながら言う僕。すると、突然腕をぐっと力強く透さんに掴まれた。ハッとしてそれに振り返ると、すぐ傍に僕を見て機嫌が悪そうにしかめた顔をする透さんの姿があった。
「俺に対抗しようだなんていい度胸じゃないか凛人」
「…っ」
この人お得意の悪魔のような表情で見つめられる。
…怖い。でも、もう僕はそれだけのことじゃ簡単に怖がったりしないぞ、僕はもうずっと恐怖の塊のようなこの人と居続けてちょっとやそっとじゃ怯えないたくましい人間になったんだ。…多分。
「離してよ、僕もう夕飯先に食べたんだ」
「…」
ぷい、と依然としてそっぽを向き続ける僕に対し透さんは僕の腕を掴んだままだ。振りほどきたいが、この力強さ、恐らくちょっと腕を振ったくらいですぐ離してくれる感じではない。…どうしよ。
「凛人」
えっ……
打開策を考えている内にいきなり透さんがぽつりと呟き、僕の腕を掴んだまま部屋の奥へとずんずんと進んでいった。あ、ああ…っっ!グダグダしてたら、結局透さんのペースに…っっ!
「わっっ」
その後、僕の部屋にあるベッドの上に投げられるように体を倒した僕は、声を上げて一瞬目を瞑る。すぐにベッドに手をついて目を開けると、透さんが緩めていたネクタイをさらに緩めて僕の元まで近寄ってくる。
「…言え。」
ビク
横になる僕の上に当然のように跨ると透さんが低い声で僕を見て言った。
「……な、…なんだよ。またそんな怖い顔しちゃってさ」
「話を逸らすな。凛人、お前この俺に隠し事するなんて、許さないぞ」
…隠し事…?一体どっちが…。
「別にそんなこと」
「また俺に隠れて何らかの方法で他の男と繋がりを持とうとしてるんじゃないだろうな?ええ?」
そうして告げられた透さんのその言葉に、僕はぐっと奥歯を噛みながら目を大きく開く。
「……なにそれ、意味わかんないよ。」
「はぐらかすな」
じっと鋭い目つきでこちらを見てくる男を僕は瞳を揺らして見つめ返す。…僕は何もしていない、それなのにこの人は自分のことは棚に上げて、僕を責めるっていうのか…?
「……僕のことなんてどうでもいいくせに」
「…は?」
暗い部屋の中で映る透さんが眉をぴくりと動かしながら僕を見て言った。
「僕以外にもいるんでしょ、こういう、都合のいい愛人がさ」
「……は……愛人?お前一体何の話をしてるんだ?」
「っとぼけないでよ!…昨日透さん明らかにおかしかったじゃん!いつも僕にべったりのくせに昨日は突然夕方に家を出て…その上どこに行ってたのか聞いたら僕には教えてくれなかったっ」
目に涙をためながら強く眉を寄せ透さんをキッと睨み見上げると、透さんが僕を見て瞳を泳がすのが分かった。…やっぱり。
「…それは、違うんだよ。つーか、何で愛人とかそういう話になんだよ」
目を瞑り片手で顔を覆うようにする透さんに、僕は続けて言う。
「別に、あなたがどこで誰と何してようが…僕は気にしないもん、あんたの好きにしたらいい」
「…凛人」
「謝ってほしいとか誤解をといて欲しいとかそういうわけじゃないっっ、…僕は、あなたのことなんか別に何とも思ってないしっ、僕は、あんたなんか好きじゃないんだからっ」
ぼろぼろと止められずに勝手に出る涙を次々に流しながら透さんを見上げて言う。
すると、頬にそっと、透さんの右手が優しく添えられるのが分かり、僕はその感触に目を見開いた。
「…なんだそれ」
「…ぁ……」
ドクン
ちがう、こんなの違う。これじゃまるで、まるで僕は、この人のことを……、この人のことを……まるで……。
「…それは、俺が好きって言ってるのか?凛人」
「…!!」
それは、雷に打たれたような衝撃。
その言葉に、素直に応じたい自分と、強く拒絶するように怖がる自分がいる。…違う。僕はこの人に、すっかり洗脳されてしまっているから…。
「僕は…あなたなんて好きじゃない」
「…」
「でも、ただ、僕をここに閉じ込めて、あんただけ違うところでいい思いしてるって思ったら腹が立って仕方なかっただけだ。…あなたのことを好きとかそういうわけじゃない」
…そう。嫉妬しているわけじゃない、僕は。
「……馬鹿だな」
唇を結び瞳をゆらゆらと揺らし目を逸らす僕の頬に流れる涙を指で拭うようにしながら、透さんがふと上から穏やかな表情で僕を見て言った。
……透さんの手、すごく温かい。
ずっとこの人の手に触れられていたい、なんて僕は馬鹿なことを一瞬でも考えてしまう。
すると、僕の考えていることがまるで分かったみたいに、透さんの手がしっかりと僕の頬に、包むように触れてきた。
なんか、雰囲気が…変。この人がいつもよりずっと、…素敵に見えるなんて、そう見えてしまう僕はきっと、おかしいのだ。
「俺はそんなに安い男じゃないぜ。」
「…」
「何度言わせれば分かる。俺はお前が好きなんだ」
…っ!
照れた様子もひとつも無く真顔でいつもの如く言ってのける男。…どうかしてる。何で僕の方がこんなに恥ずかしい気持ちにならなければならないのか。
「凛人」
透さんが僕を見つめる。僕はその瞳に体が金縛りにあったように痺れて、固まって、動けない。
「お前が俺をどう思おうと、俺はお前を逃がさない。」
ドキン
「…凛人、抱きたい」
「!……や……やだよ」
薄暗い部屋のベッドの上で、横たわる僕の体を透さんの手がやらしい手つきで動き、僕の服の中に侵入してくる。
「お前の感情的な泣き顔にやられた、…めちゃくちゃにしてやりたくて堪らない」
「っっ…やだ、ってば…っ」
首筋に透さんの頭が埋まり、透さんの舌が僕の素肌を這う。
「だ、だめだって、ば」
僕はびくんっと体を反応させながら眉を下げ頬を紅潮させた。透さんに愛撫されながら僕はまた涙を瞳から流した。
「…凛人…」
透さんに名前を呼ばれるだけで体が震えた。ハァハァと僕は透さんの下で息を上げながら真っ暗な天井を見上げた。
もしかしたらもう、僕は戻れないところまで来ているのかもしれない。透さんに体の奥に中出しされながら、僕は頬を染め全身をピクピクと震わせた。
透さんと過ごして、かれこれもう3ヶ月の月日が経っていた。
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