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58.変化
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ー
「あれ?目腫れてる?大丈夫かい?」
「…あっいやこれはっっ」
次の日、透さんの言葉を無視して花屋に再び訪れていた僕は、すぐに烏堂さんに顔を見てそう指摘され、慌てて顔を手で隠すようにした。
そんなに目立つのかなっ、困った。昨日は確かに夜ずっと長い間泣いてたから…。
「何かあったかい?」
花屋のレジの奥にある部屋で腰掛ける僕に対し、目の前に座る烏堂さんーー店長が心配そうにして尋ねてき、僕はふるふると首を横に振る。
「いいえ、何でも」
…やらなきゃ。誰に何を言われても、やらなきゃ。働かなきゃ。
「ーーうん、OK。シフト希望日も把握したよ。じゃあ、うちで働いてる那月にも君のことを紹介しておくね」
…なつき?
きょとんと首を傾げると、ああ、と言って烏堂さんが微笑む。
「言い忘れてたね、うち唯一1人だけ社員として働いてる子がいるんだ。君より1つ2つ歳下かな」
へえ…、てことは歳上の僕より数倍しっかりしてる子かな…。僕は店長の後をついて行きながら、話を聞く。花屋のレジに裏から顔を出すと、そこには1人、背の高い男の人がなにやら作業をしている後ろ姿があった。
「那月」
「はい」
店長に呼ばれ那月と呼ばれた目の前に立っている男の人が振り返った。
「この子、次のシフトからうちで働くことになった月草君」
「は、初めまして。月草 凛人です、これからよろしくお願いします」
僕は耳にピアスを開けた少々怖そうな顔つきをした彼にぺこり、と頭を下げた。なんか髪色も若干一部紫色に染めてるんだけど…この人がほんとにここで唯一働いてる社員さんっ?
「どうも、よろしくお願いします。久藤 那月です」
「那月、この子に色々教えてやって。俺が入る日は俺が教えるから。以前花屋で働いてたことあるみたいだから、そんなに言うことないかもしれないけど」
「了解っす」
店長はそう言うと、ちょっと出てくるね、と言って僕を彼に引渡しどこかに去っていった。……え、…こ、この人と僕これからここで何するの?…今日は履歴書渡しにきただけだし、もう帰っていいのかな、よく分からない…店長帰ってきて…っ!
「ねえ、月草?さんだっけ」
ビク
派手な容姿をした彼に声をかけられ、横に一定の距離を空けて立っていた僕はびくりと反応する。
「…は、はい」
「歳いくつなんです?」
「22です」
「へえ、俺21。これからよろしくね」
ぶっきらぼうにそう言う彼に、僕ははい、と控えめに返事をする。見た目は派手だけど、怖い人ではない、のかな。
「ね、花屋で前に働いてたの?」
「え?…あ、うん。ほんの少しだけですけど」
「へえ、花が好きなの?」
「はい。久藤…さんも?」
「ああ、那月でいいよ、敬語は気にしなくていいし。」
「那月、君?」
「うん。まあ、そうだね。花は好きだよ。じゃないと、花屋でなんて長く働いてられないからね」
あの店長が怒るとおっかないしさ〜。そう言う那月君に、僕は目を大きくして驚く。
「え、烏堂さんって怒るのっ?」
「は?そりゃね、あの人も人間だから。ちなみにあの人怒ったら超怖いよ」
ひっ…。こんな怖そうな彼が言うくらいだから、よっぽど怖いのか烏堂さん…気をつけなきゃ。
「ま、平気さ普通にしてれば。俺の場合よく掃除テキトーにしてるの見抜かれて毎回しばかれてるだけだから」
…な、なるほど。
「月草さんは大丈夫なんじゃない?」
「えっ」
「真面目そうだし」
彼が細い目つきをこちらに向けて、僕を見て言った。
「それに…」
じーとしばらく僕を見てくる彼に、僕はえっと…と言葉を詰まらせる。
「な、なに?」
「いいや。月草さんは立ってるだけで客を寄せ付けそうだなと思って」
へ?
「帰りどうやって帰るの?何時まで勤務?」
「えっと、5時までで、家が近いので歩いてです」
すると、ふーんと言って那月君が自分の顎を触った。
「なら平気か。夜道を歩くようだったら少し心配だったけど」
「どうしてです?」
「そりゃ、世の中には色んな人がいるからさ。月草さんの見た目って人から好かれそうな顔してるから」
彼の言葉に僕は目を大きくした。…そんなこと言われたの初めてだ。
「…僕の容姿が客引きで役立つのなら、この見た目で良かったなって思います。」
瞳を伏せて僕は薄く笑む。
「そういうもん?」
「はい」
「そ。でも、気を付けてね。あんまり無いとは思うけど、もし変な奴らが来たらさ。俺や店長が相手をするから」
……驚いた、最近の子ってどうしてこんなにたくましいんだろ。永祐君と言い、彼といい…。それなのに僕と来たら……なんて情けないのか。
「僕、頑張るね」
「え?ああ、もちろん初めから頼りにさせてもらうつもり」
にこ、と笑む彼に僕は口元を綻ばせた。頑張る、頑張らなきゃ…自分の為にも。色んなことの為にも…。
「ただいま」
「…おかえりなさい」
夜、いつも通り帰ってきた透さんに僕は体を少し硬くさせながら目を伏せる。
「凛人、そこに座れ」
ビク
透さんに言われ、僕は席に着く透さんの前に少し震える手で椅子を引き、腰を下ろす。
「お前が例の花屋で働くかどうかについてだが」
「…」
「……許可してやる。」
………え?
僕はぱっと顔を上げる。
「お前ももう22なんだ、自分でそこがいいと思った以上、俺に止める権利はない」
…透さん…。
「だが、もし変なことがあったりされるようなことがあったら、その時は無理矢理にでも辞めさせる。お前だってやだろ」
「う、うん」
「なら、もうこの話は終わりだ。飯食うぞ」
へ……。
パクパクと夕飯を食べ出す透さんを見て僕は瞳を開く。…透さんが、少しずつ受け入れてくれるようになってる。僕のことを、尊重するように…。
「お前も早く食えよ」
「…う、うん」
僕は嬉しくて涙が出そうになった。
透さん、僕頑張るね。僕、頑張るからね。
僕は瞳を涙で潤ませながら笑ってご飯を口にした。
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