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59.視線
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「ね、君のおすすめの花ってなに?」
後日、シフトの入っていた日に花屋に来ていた僕は、晴れやかな気持ちで花の手入れをしていた。外に置いてある鉢植え全てに水をやってふう、と一息ついている時に通りがかったスーツを着たサラリーマン風の男の人に話しかけられた。
「え、おすすめ…ですか?僕の?」
「そうそう。言ってくれたもの買うよ」
僕はそうして肩に手を置こうとする男に対し動かずにその場にじっと立ち止まっていると、
「お客さん」
店の奥からやってきた那月君が眉を寄せて男の手をぐっと掴んだ。
「買ってくれるのは嬉しいですけど、セクハラは駄目ですよ。ここそーいう店じゃあないんで」
「…ち」
那月君すごいな、初対面のしかも歳上の男の人相手にあんな堂々とした態度…。
「月草さん、ああいうのはちゃんと拒否しなきゃ」
「え?」
結局僕がテキトーに選んだ花を買って帰ってくれた男の人に、ありがとうございました、と僕は言って下げていた頭を上げると、後ろから那月君がやってきて言った。
「え、じゃなくて、体触られそうになってたでしょ?」
「別にあれくらい平気。女の子でもないし僕」
「え?」
怪訝げに那月君の眉間のシワが寄る。理解できない、といったように。
「あ、ごめんね。僕前に花屋で働いてた時もよくこういうことあったから、慣れちゃってるのかもしれない」
「…慣れてるって、セクハラに?」
「ううん、そんなに大きなことじゃないよ。それに花を買ってくれたんだし、僕は気にしてないよ」
すると、那月君は納得してなさそうな顔で僕を見て、そう、とだけ言ってから店の奥に戻っていった。僕、…もしかして彼に嫌われちゃったかな。
ー
午後、まばらに訪れるお客さんに接客しつつレジ前の椅子に1人ぽつんと座っていると、
「やあ。月草君」
「!て、店長」
店長が店の外から僕のいるレジの方まで歩いてやってくる。
「仕事順調?」
「はい、分からないことは那月君が教えてくれたので」
「そっか。あれ?那月どこ行った?」
「今は休憩室にいます。お客さん来なくて暇だとかで」
「はあ、それで新人の君にレジ前で座らせて自分はサボるとは…今度また叱っておこう」
呆れた表情をする烏堂さんに僕は苦笑する。
「ごめんね。月草君」
「え…」
ふと、机を挟んだ向こう側に立つ烏堂さんの手がレジ前に座る僕の前髪に触れた。
「だ、大丈夫です。虐められてるとかでもないですし」
「そう?次俺とシフト入ってる時はもっと色んなこと暇な時間に教えてあげるからね。」
「は、はい」
前髪を触りながらじっとこちらを見つめてくる烏堂さんに、僕は瞳を揺らす。
「苗字じゃなくて、凛人君って呼んでもいい?」
「えっ?」
「那月のことも下の名前で呼んでるしさ、だから君も。駄目かな」
「い、いいです全然、呼んでもらって」
「そっか、良かった。じゃあ凛人君、またシフトが入ってる日にね」
ひらひらと手を振ると、烏堂さんは店から去っていった。…なんだろう。今、あの人から得体の知れない雰囲気を感じた。烏堂さんに見つめられる視線から、体を動かせなかった。…一体なんで?
「今店長来てた?」
ビクッ
「き、来てたよ。」
休憩室から顔を出してくる那月君に僕はびくりとしてその場を立ち上がる。
「あれ、どうしたの?」
「え?」
「や、なんか動揺してるからさ」
……動揺…してる…?僕…。
「?どうした?大丈夫?」
「へ、平気!目眩がちょっと、しただけ」
「目眩って、全然大丈夫じゃないじゃん」
「…平気だよ」
…まさか、まさかだよね。そんなわけないよね。
まさかあの人が、僕に変な気持ちを抱いてるかもしれないなんて、そんなのただの僕の考え過ぎだよね…?
ねえ、絶対そうなんだよね…?透さんの言った通りなんて、まさかそんな馬鹿なこと、絶対、無いはずなんだよね…?
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