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61.飼い犬
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ーー
休憩時間、僕は烏堂さんに連れられて、近くにあるファミレスへ来ていた。
僕の正面に腰掛ける烏堂さんは、足をクロスさせ、落ち着いた仕草で紅茶を口にしていた。お客さんはまばらにいるようだ。昼時を少しすぎた時間の為、あまりお客がいないのかもしれない。
「うちで働いてる大抵の子は、お昼は近くのこういうお店に来てお昼を食べたりしてるよ。凛人君はどうしてるの?」
静かに紅茶を飲む烏堂さんの瞳は、下に伏せられている。
「…僕は、お昼は近くのコンビニでおにぎりを買ったりして、それを花屋の休憩室で食べたりしてます。」
「そんな、コンビニだなんて…体に悪いよ。それにおにぎりだけなんて、痩せてるわけだ。それにあの花屋の部屋はあくまで休憩用で、とても簡易的なものなんだ。こういうとこでしっかり食べるべきだ。それともファミレスですら払うお金が無いのかい?」
ビク
「……そんなこと、…烏堂さんには関係ないと思います。」
心臓の音をドクドクと立てながら、僕は少々青い顔をして、震える手で烏堂さんと同じ紅茶のカップを掴み、ひとくち口にした。
「そうか…。もっと甘えてくれたっていいのに」
甘える……?
僕は切なげな瞳をする烏堂さんを見て、困惑した表情を浮かべる。
「あの、僕…言っている意味が、よく…」
すると、烏堂さんが紅茶のカップを机に置き、スっと正面に座る僕に目を向けた。それは以前も感じたもので、僕は烏堂さんに見つめられる視線から、何故か目を逸らすことができず、体を固まらせる。
「凛人君、何故君は週3勤務なんだい?」
ドキ
「体が弱いのかい?それとも他に何か事情があるの?お金が無いならもっと働きたいと思うはずだけど」
…この人、一体僕から何を聞き出そうとしているんだ…。
「それに君の住んでる住所って、確かすごく高いマンションがあるところだったよね。君に両親はいないと聞いていたし、まさか君1人で住んでるとも思えない」
「…!」
「ずっと俺は君に違和感を感じてた。お金が無い割にいつも小綺麗で、…それにいつも」
そうして急に、烏堂さんの手が前に座る僕の鎖骨近くの服の裾を掴んで、ぐっと横に引っ張った。
「っ!!と、突然何を…っ?!」
「やっぱりあるね。濃いキスマークの痕がさ」
…え?!
僕から手を離した烏堂さんは、先程と変わらない落ち着いた様子で椅子に腰かけ、ごくりと紅茶を口にしている。
烏堂さんは少し間を空けて言った。
「…君、そのキスマークをつけた奴に飼われてるね?」
…!!
……なに……何だって…、…飼われてる……?飼われてる、…だって……?
「動揺しているみたいだね。」
「…」
「可哀想そうに。一体どこの誰なんだい?君のような美しい子を自分のものにした気になって恐らく君に日頃好き勝手してるだろうその最低卑劣な人間は」
…っっ、
僕は烏堂さんのいつもより棘のある声を聞いて、顔を伏せ唇を強く噛んだ。
「…あなたには、関係ないっ」
僕はそう言って、その場を立ち上がろうとする。ガタッと席を立つと、すぐに烏堂さんに腕を掴まれた。
「待って!」
「…離してくださいっ!」
腕を掴まれたまま無理矢理歩こうとする僕に向かって、烏堂さんが後ろから言う。
「ねえ凛人君!良かったら…うちで社員として働かない?」
……!
…何だって……?
僕はゆっくりと後ろに振り向いて、信じられない顔をして烏堂さんを見る。
「ずっと、うちで働けばいいよ。それに、住むところが無いなら俺が部屋を用意してあげるしもちろん家賃なんかは払える範囲でいい。君が変なやつのところに捕まってるなんて、俺嫌なんだ。君を救いたい」
僕は体を震わせながら、烏堂さんに後にぎゅっと握られる左手にビクリとして怯む。
「欲しいものは何でも与えてあげるよ。凛人君が望むものなら、何でも」
……やめて…、…やめてくれ…。
「俺が君を一生養ってあげる。俺は君を飼うような真似はしないよ、だから今君といる奴より、俺の方がきっとずっと優しいはずだ。絶対そうなはずだ。」
ビク…
烏堂さんの目に見つめられる。僕はそれにぶるぶると体を震わせる。この人は…透さんのような恐ろしい気迫もオーラも、怖いなんて雰囲気一切ないはずなのに、なのに…僕はこの人に足をすくませてしまう。叩かれたわけでも、睨まれているわけでもないのに、ただ見つめられるだけで体が恐怖で包まれてしまう。
有無を言わせない…そんな雰囲気をこの人から常に感じて、怖いんだ……。
…ああそうだ、僕は、この人が怖い。この人のことが、怖い…。
「…僕…先に花屋に戻りますっ」
僕は烏堂さんの手を振り払って逃げるように店を出た。人目も気にせず走りながら、僕は目元から涙が流れているのが分かった。
何をしてもうまくいかない、前を向こうとしたらまた、違う壁にぶち当たる。僕は一体どうしたらいいの?
僕は誰に問うでもなく、真上にある淀んだ空を涙を瞳から頬に流しながら見上げた。
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