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69.喪失(透side)
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「立花社長、お疲れ様です。」
「お疲れ」
俺は会社の廊下をせかせかと歩きながら、ぱっと腕時計を目にした。また今日も仕事が長引いたようだ。
社長ってのはただ椅子に座ってるだけの楽な仕事かと思ったら、取り引き先の相手とにこにこ常に日頃から仲良くしてなきゃならないし毎日くだらない会議はあるし、朝は早いし、ほんとにこんなこと毎日毎日やってられねぇぜ。というのに、なんだかんだと俺もよくやってるもんよ、この俺がさぁ。
『透さん』
…ああ、それにしても今日はやけに朝からずっとあいつの顔が頭に思い浮かぶなぁ。早くあいつの元に行ってやりたい。凛人、すぐ帰るからな。
待っていてくれよ。
「っうお」
外に出ると、突如強風が俺を襲った。
なんだこの荒れ模様。雨が横なぶりに降ってきてやがる。スーツが…畜生。そういえば、今日の昼頃から怪しい天気してたような。仕事の用事で外に出てたから分かる。しかし、まさかここまで荒れ狂った天気になっているとは。
(あいつ……無事に家に帰ってるだろうな)
俺はふと思い立ち、車のエンジンをかけると、スピードを出して家まで帰った。
…そうだ確か、朔夜が今夜はこの県に最も台風が近づくとか何とかで危険だからなるべく外出禁止なんだ、とか言ってたっけな。
“透さん”
……一体どうしたんだろう。ほんとに今日はやけにあいつの顔ばかり何度も思い出して、俺は。
………嫌な予感がする。
「……凛人!」
俺はマンションのドアを鍵を開けて入り、すぐさま凛人の名を呼んだ。
……!?
しかし、俺はすぐ異変に気づいた。部屋の明かりが…ついていない。まさかあいつ、まだ帰ってないのか?
俺はひとまず部屋の電気をつけ、動揺する気持ちを落ち着かせるように、リビングの食卓の椅子に腰を下ろした。
……何故帰っていないんだ…?
俺は机上に腕を置き、両手を合わせて強く握りながら考えるように眉を寄せる。
まさかまだバイトか?いいやそんなわけはない。この嵐の中で客が増えるとも思えない。それに、俺はあいつに確かに門限の時間を言ったはずだぞ。
……遅くて夜の7時までだぞ、それを越えるなと。
………なら何で帰っていないんだ……もう夜の8時半だぞ…凛人…。もうじき、9時になる。
俺はスマホを取り出した。すぐに凛人に向け電話をかける。しかし、
『貴方のお掛けになった電話は、現在電波の届かない場所におられるか、電源が入っていない為、かかりません』
……っ!
俺は機械音の流れる声を耳にし、眉を吊り上げながらスマホを持つ手を震わせた。
…凛人…何をしてる。一体どこで何を?
まさか、こんな夜にここに帰らずに、こんな日にわざわざ俺から逃げようとこの家から脱走を…?
それともなんだ、変な奴らにまた何処かに連れ込まれようとしているのか?いや、もしかしたら帰り道にどこかに寄り道でもして、その時近くにあった川にでも体を流された……?この天気だし有り得なくもないのか?
「……っっ」
……ああ畜生………っ!!!!
俺はコートを着たままスマホだけを手に、再び部屋のドアを開けて走って外に出た。
…はぁ、はぁ…
……凛人……
今どこにいる?何をしてるんだ、この俺を放って。それとも、…何かをされているのか?俺以外の男に。
今行く……凛人、待ってろ、すぐに俺が駆けつけてやる。
必ずお前を、この家に連れ戻す……!!!
俺は再びすっかり嵐になっている街の中を車で走り出すのだった。
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