アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
72.雨の中で
-
…はあ。僕何してるんだろ。
行き先も分からぬままただ前に続く道を走り続けて。
…ここって一体どこなんだろ。
僕は相変わらず大雨の振る荒れた天気の中、公園らしき場所を見つけてふらふらと足をそこに踏み入れる。ストン、とベンチに腰掛け、僕はザーと容赦なく降る雨の中膝を抱えて体を丸める。
…もう体は雨と冬の夜の寒さで冷えきって、手と足の先の感覚があまりない。でも、不思議と雨は心地いい。ゆっくりと、この嵐が、この雨が、僕の体温を優しく奪っていく。
僕は雨に体を包まれながら、瞳を閉じた。
…ああ、僕なんてこと考えてるんだ。
僕このまま今ここでこの世から意識を手放そうと考えてる。
僕ってばもう…。ほんとにそれでいいのか、こんな何もかも中途半端なまま命を落としてもいいのか?
“……凛人……ッ!”
…あれ、気のせいか、今僕を呼ぶ誰かの声が聞こえた気がした。こんな雨の中で聞こえるわけなんてないのに。僕はどうかしてる。そうさ、僕はもう疲れたんだ。
大体、僕のことを探してくれる人なんて、この世にはもう……。
〝…どうして逃げるんだ〟
……あれ、…もしかして前に似たようなことがあった?
そうだあれは、僕が初めて透さんの家から脱走した時だ。大分遠くまで走って走って逃げたつもりだったのに、気づいたら目の前にあの人がいた。
……何でこんなこと思い出すんだろ。
僕、気づいたらあの人との思い出ばかりが頭を占めてる。いつもいつもあの人の傍にいたから…こんな時でもあなたを思い出してるんだ。
…違う。…こんな時だから、もしかしてあなたのことを思い出しているの?
…分からない、…分からない…。
……ああ…、辺り一面……真っ暗闇だ……。
ひとり……か…。…そうだ、僕は元々ひとりで生きてたじゃないか、それなのに何を今更怖がって、弱気になって。
あの日あの人は何故僕を助けたんだろう。
あの人に助けられなかったら僕は今きっと…ここには…。
…でも、やっぱり生きてても苦しいの。ありとあらゆる分厚い壁が僕の前に立ちはだかって、僕はそれに圧倒され押し潰されて。
苦しい、苦しい、…苦しいんだよ…。
だけど、胸の奥底で生きなければと思う自分がいる。それは何でか?自分でも分からない。でも、…何かが、誰かが、僕を生かそうと奮い立たせる。
…ああ、そうだ。足を前に動かそう。
こんなところに立ち止まってちゃいけない。
…辺り、ほんとに真っ暗だな…今何時くらいなんだろ…。雨と風もすごいし…。ここは恐らく知らない土地だし、それに僕、方向音痴だからな…。
でも、行かなきゃ……。
ーー前を、向かなきゃ。
ベンチから立ち上がった時、ふと後ろから雨の音に混じってバシャバシャと雨を荒々しく踏み走ってこちらに向かってくる音が聞こえた気がした。
…誰…っ?
もしかして……烏堂さんが、こんなところにまで…。
僕は反射的にその場を裸足のまま駆け出そうとした。すると、
「凛人!!」
雨の音に紛れ後ろから聞こえた声に、僕はその場に踏み出そうとした足を固まらせて立ち止まった。
………え…?
背後を振り向いた。そこには、ハアハアと体を浮かせて息をする僕を見る透さんの姿があった。
「………と…おる、さん…」
僕は透さんの姿を前に、足を1歩後ろに下げる。
「凛人………やっと…見つけた……」
「……!」
全身を雨でびしょ濡れにさせながら透さんが垂れた前髪の下から切れ長の鋭い瞳を僕に向け、怖い顔をして言った。
だめ……この人に捕まったら…僕は…。
「!!おい待て…!!どこに行く!?」
踵を返し、走り出す僕を、後ろから透さんが追いかけてくる。
「…っ!いや!」
すぐに腕を掴まれ、捕まった僕は声を上げて体を動かし僅かな抵抗をする。
「…凛人…もう許さない……」
ビク
僕の腕を強く握る透さんが、僕を見下ろし恐ろしい顔をして見つめてくる。
「…言ったはずだな…次俺から逃げたら許さないと」
……!!
「…凛人……お前……俺がどれだけ心配したかっ、…分かっているのか!?」
雨音に負けないくらいの大きな透さんの怒号がすぐ傍で飛ぶ。僕はそれにカタカタと体を震わせる。
「もう逃がさないぞッ!お前をもう二度と、自由になんてさせてやらない…!絶対にだ!!」
「…!」
そ、そんな……。
「…いや…、…いやだっ!」
「口答えするな!!」
ビクッ
怖い顔をした男に見つめられ、僕はその直後、力尽きたように気怠い体をふらりとふらつかせてしまう。
「!凛人……っ!!」
しかし、体はすぐに男の腕に抱き止められた。
僕は透さんの腕の中でハァハァと荒く息をしながら眉を悩めかしく寄せた。
「……凛人……」
僕はそのまま、透さんにぎゅっと体を抱き締められる感覚がするのを感じた。
「…凛人…なんでお前は、俺の言うことを聞いてくれないんだっ?」
「…ハァ、ハァ」
「どうして俺からお前はそうも逃げようとする……っ?!凛人、…俺はお前を…愛しているのに……。お前だけをずっとっ…、俺はお前を、こんなに愛してるのに…っ!」
僕を抱きしめる透さんの体が気のせいか震えている気がした。
僕はゆっくりと意識が遠のくのを感じた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
73 / 178