アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
82.繋がれた鎖
-
「…これって…」
「早く入って、時間がない。」
戸惑う那月君を無理やり部屋の中に入れると、僕はドアをバタンと閉め、透さんの顔を頭に思い出しながら、ぶるりと体に冷や汗を流した。
「月草さん?」
「……あ、ごめん」
「…あの、月草さん。その首輪って」
そのまま部屋の奥に足を進めようとして、すぐにストレートな性格の那月君に尋ねられ、僕は足の動きを止め、顔を強ばらせた。
「…ごめんね」
「え?」
「僕は、君の思ってるような想像してるような、…そういう男なんかじゃないんだ」
瞳を伏せ話す僕を、傍に立つ那月君が見つめる。僕はぎゅ…っと拳を強く握り、彼から顔を逸らすように目を瞑る。
「……そう。」
すると、那月君はしばらくすると、ただそれだけを言って僕からスっと目を逸らした。
え…?
「みんな、色々あるよね。俺にもあった。月草さんにだって、そうだよね。色々、悩み事があるんだね」
「!…那月君」
僕はこちらを向いてに、と薄ら優しく笑う那月君を見て顔に安堵の笑みを浮かべる。
「それで?どうする?急がないとヤバいってことなの?なら、早くこの首輪外さないと」
そう言ってふと那月君がスタスタと歩いて僕に近づき、ス、と首輪に触れてくる。僕はそんな彼の手を止めた。
「なに?」
「……だめなんだ」
「え?」
「この首輪は簡単に外せられるものじゃないんだ。」
…そうだ。過去何度もこの首輪を外そうと色んな方法で試みたものだ。しかし無理だった。そして、鏡を見ていて気づいたんだ、この首輪は…
「この首輪は、鍵でないと外せない仕組みになってるんだ。首輪の後ろに鍵穴があるでしょう」
「か…鍵っ?」
「うん…」
そしてその鍵を今握っているのは、透さん……。
「……愛されてるんだか…貶められてるんだか」
「え?」
ふと、那月君が僕を見て複雑そうな顔をして言った。
「……いいや。なら、首輪が無理ならこの鎖を引きちぎろう。それならこの家から月草さんも出られるよね、首輪付きなのは少し我慢してもらうことになるけど」
…!
「そ、そんなこと…出来るのっ?」
だってこの鎖、すごく頑丈なんだよ。人用にだったらもっと簡易的な軽い物があるだろうに、僕を人とも思わせないような明らかに動物用の重い鎖をあの人は僕に繋げて…。
本当にどうして、…あなたは…。…どうして…。
「分からないけど、ハンマーか何かあれば砕いていけると思うんだよね。」
「は、ハンマー?」
僕は那月君の言葉を聞き、棚や引き出しを漁って急いでハンマーを探す。
…しかし、駄目だ。ここにはない気がする、この家にハンマーなんて物…見たこともないし…。変なアダルトグッズはやたらあるのに…はぁ。
「困ったな……何かこの鎖を打ち砕くもの……いや違う。…そうじゃない。……そうか、ペンチか」
「…ペンチ?」
「そうだっ、俺1度花屋に戻る!」
「えっ?」
「ごめん、すぐ戻る!」
那月君はそう言うと一目散に部屋のドアを開けて出て行った。そしてしばらくすると、再び戻ってきた那月君がインタホーンを鳴らすのが分かり、僕はドアを開ける。
「…待たせてごめん!」
「平気だよっ、それより那月君それって」
「ああ、これはお客さんに花を作る時に使うペンチだよ。これでワイヤーを曲げたりして使うんだ。もしかしたら、…これなら頑張ればこの鎖を外せるかもしれない」
…!
那月君が真剣な顔をしてペンチを手に僕の首に繋がった鎖に触れる。
「…っ、畜生、分かってたけど、硬いな…っ」
「…な…那月君、ほんとにそれで…」
「きっと大丈夫だよ、不可能なわけじゃない。ほら、少し曲がってきてる」
那月君が額に汗を薄らかきながら僕の方を向いてに、と笑ってみせる。……那月君……。
「絶対月草さんをここから解放してみせる」
「…!」
那月君…ごめんね、
こんなことに巻き込むつもりなかったのに…でも来てくれて助かったんだ。お陰で僕はあの人の元に行ける…。僕が止めなきゃ…、全部僕が引き起こしたことだから。
「こんなことしたってバレたら……」
「え?」
「俺、あとであの男に何されるのかな」
ふっと笑いながら顔から汗を流す那月君の横顔を見て、僕は必死で首を横に振る。
「させないよっ!そんなこと、僕が絶対にさせないからっ、何をしてでも」
すると、那月君が僕を見て眉を下げて笑った。
「やめてよ」
「…え?」
「自分の身くらい、自分で守れる。それに、俺月草さんに言ったよね、もっと自分を大切にしてってさ」
「…那月君」
「月草さんも、自分の身は自分で守って。自分を犠牲にしちゃダメだよ。大丈夫、いつか叶うよ。月草さんの信じてる未来がきっとすぐに来るから」
そう那月君が言い終わったとき、僕はふと体が浮くような、軽くなった感覚を感じ目を開いた。まさか…
「…繋がれた鎖を断った、月草さんも連れて行けそうだよ」
僕は自分の首から伸びる鎖が足元で分断されているのを見て、歓喜し、同時に恐怖した。
「那月君、本当にありがとう…!」
笑って那月君を見る僕に、那月君が微笑み返す。
「首輪と、首輪から少しだけ垂れてる鎖はマフラーで隠せるはず」
そう言って自分の巻いていたマフラーを僕の首元に巻いてくる那月君。…本当にしっかりしてるな、那月君…僕より歳下なのに。なのに僕……僕は、一体何をしてるんだ、首輪を嵌められ、家に繋がれ……。
「ほら乗って!今日はバイクで来てるんだ」
外に出ると、そう言ってヘルメットを渡してくる那月君。
「月草さん」
渡されたヘルメットを被ろうとする僕を見て、ふと那月君が声をかけてくるのに気づく。
「頼むから、無茶はしないでよね。熱も多分、下がったばっかなんだろうしさ」
僕は那月君の巻いてくれたマフラーをしながら、どこか不安げにこちらを見つめてくる那月君に向かってほんの少し微笑みながら、うんと、頭を縦に頷かせた。
「よし、なら行こう…!ここから月草さんの教えてくれた場所なら、バイクで飛ばせば30分はかからないはずだ」
僕は那月君のバイクの後ろに手を回して乗りこんだ。
待ってて…烏堂さん、…透さん。
どうか神様…、間に合って!もう少しだけ時間をください。
僕は冬の寒空を見上げた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
83 / 178