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84.冬の潮風、彼の涙
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「着いた……!ここだよ、月草さん」
バイクを停め、砂利道の上に那月君が足をおろしながら僕に言った。ここって……
「もしかして、この大きな倉庫の建物の中に、烏堂さんたちが…?」
僕は那月君の手を掴みながら地に足をつき、ヘルメットを外しながら額に冷や汗を流して言う。近くには海があり、ザザと波の音を立てながら冷たい風が吹いている。1月ということもあって、体に当たる風は体をぶるりと震え上がらせる。
「そうだろうね…。辺りに他に建物なんかないし。でも、こんな人気のない古びた倉庫に呼び出すなんて……悪い予感しか」
「…!」
暗い顔をして話す那月君に、僕は瞳を大きくさせる。
…烏堂さんが…危ない…っ!!
「あ!!月草さん!!!」
僕は一目散に走って重い錆びた倉庫のドアを開けた。ギィと音がたち、扉が開いたその先に映ったものに僕は瞳を大きくさせる。
「…?!…なに…これ……」
建物の中には見るからに野蛮そうな人達がたくさんいた。これは一体…、この人たちは一体…。
そしてその中に、今朝見た透さんの姿もあった。
「……!!」
それから僕はふと、透さんの足元に傷だらけで仰向けに倒れている人物に気づき、言葉を失った。
あれは…、…烏堂さん……っ…!
ピクピクと僅かに体を動かし顔を上げようとする烏堂さんの額からたらりと赤い血が流れているのがわかり、僕は透さんの右手に持つ鉄パイプらしきものを見て声にならない声を出し、走って2人の元まで向かった。
「…やめて……!!」
僕は倒れる烏堂さんの体の上に自分の体を覆いかぶせながら透さんを見上げて言った。
「…!…凛人っ!なんでお前がここにっ?」
「もうやめて透さんっ!もうやめて」
僕は傷だらけの烏堂さんを庇いながら、瞳からぼろぼろと涙を零す。
「一体どうやって……あの男か」
ちら、と透さんが倉庫のドア付近に立つ那月君を見て言った。
「お前は男をたらし込むのが上手いな、凛人。連絡手段もなしに何の術もなく向こうから自分の方へ男を引き寄せてみせるんだから」
そう言って那月君の方に足を進めようとする透さんに気づき、僕は烏堂さんから離れ、地べたに膝を着きながら両手で透さんの足を掴んで引き止める。
「!…何するんだ凛人っ、離せ!」
「離さない…!彼に何かしたら許さない!絶対に許さないっ!!」
透さんの足にしがみつく僕を、透さんが力づくで振り払う。
「…あ…っ!」
透さんに突き飛ばされた僕は、体を倒す烏堂さんの傍に体を倒し、冷たい床に背中を打ち付ける。
「…凛人君…っ!」
烏堂さんにそう呼ばれるのに気づき、僕は振り向く。すると、そこには額から血を流しながら体を起こそうとする、僕を心配そうな顔で見つめる烏堂さんの姿があった。
…烏堂さん…。
その時、コツコツとこちらに歩み寄ってくる男の足音に気づいた。僕はそれにビクッと体を反応させ顔を男の方に振り向かせ、地べたにお尻を着きながら体を起こし、男を強く睨んだ。
「なんだ凛人、こんなところまでその男をわざわざ庇いに来たのか?」
「…っ」
「一体お前は何度言えば俺の言うことが分かるんだ?ええ?また俺の言いつけを破って、…勝手に外に出たな!?」
ビクッ
鬼の形相をした男に睨まれ、僕は僅かに体を震わせて目の前に立つ男に怯える。
「退け、凛人。」
透さんが僕に歩み寄り、僕は透さんが僕の後ろにいる烏堂さんの方に近づこうとしているのを見て、僕は烏堂さんの元に体を運ばせる。
「…いやだっ!」
僕は烏堂さんの肩を震える両手で掴み、涙で濡らした目を瞑りながらぶんぶんと首を横に大きく振った。
「…凛人、俺はお前の為に、その男に制裁を与えてるんだぜ。そんな男をお前が守って一体どうなるって言うんだ。そいつが何を考えていたのかまだ分からないのか?!」
僕は透さんの言葉に顔を伏せながら、涙を流す。
「そこを退け。お前に薬を盛りお前を襲おうとした時点でこいつの死は決まっている。そいつは俺を怒らせたんだ」
「…もうやめて、透さん…」
「っ退けと言ってる!!お前、まだ尚俺に歯向かう気か!?」
「もう十分でしょうっ?!これ以上何をするって言うのっ?もう、これ以上何を……」
僕は烏堂さんの体を庇うように支え触れながら、顔を下に向け唇を噛む。
「りん…と、くん」
「!」
すると、ふと僕に肩を支え持たれていた烏堂さんがそう声を発し、ゆっくりと顔を歪めながら体を起き上がらせた。
「…烏堂さんっ!」
はぁ、はぁ、と息をしその場に手を後ろに拘束されながら座る烏堂さんに僕は目を向ける。
「…君は、早く、逃げなさい…」
…え……?
額から血を流す烏堂さんの辛そうな顔を見ながら僕は瞳を大きくさせる。
「こんな男の傍にいちゃ…駄目だ。俺は、平気だから」
「…烏堂さん」
「君には、悪いことをしたと思っている…。ごめん凛人君…。俺…どうしても、君が欲しかった…」
僕は烏堂さんのぼろぼろの体と顔を見て、涙を流した。
「もう、そんなこと気にしてないんです…。烏堂さんごめんなさい、ごめんなさい…」
僕は、間に合わなかった…。透さんを、止められなかった…。
「…何故君が謝るんだ、おかしな子だね。俺は君を、自分のものにしようとした愚か者なのに。」
「…」
「だけど、君はこの男のものじゃない。いいや…君は誰のものでもない……誰かのものになんてさせるか」
そう言って、烏堂さんが涙を流す僕の頬に震える黒く薄汚れた手のひらをそっと添え触れてくる。
「…ああ…嬉しいよ。こんな状況でも何でもいい…。君が、俺を見て涙を流してこんなにも泣いてくれている…それだけでもう、十分なんだ」
「…烏堂さん…」
「君がこうして俺を思って泣いてくれるのなら、俺はこの場で死んだって構わない。…そうすれば君は一生俺を忘れない。君の中に生き続けるだろう?」
そう言い薄ら笑う烏堂さんを見て、僕は頬に添えられた烏堂さんの手を取り、首を横に振った。
「いいえ違います…、こんなことで…僕なんかのことで人生を棒に振らないで…!花屋はどうするんですか?それに、あなたのことを慕ってあなたのことを思ってくれている人だっているんですよ、烏堂さん」
すると、烏堂さんが僕から瞳を逸らし、こちらに歩いてやってくる彼に向かって顔を上げた。
「……那月…」
烏堂さんの目が彼を見て見開かれる。
「店長、…頼むからしっかりしてくれ。もうこれ以上俺にあんたを幻滅させないでくれっ!!」
「…那月…」
「頼むから…店長」
那月君がその場に膝を着き、涙を堪えた目で烏堂さんを見たその時、何か口を開こうとした烏堂さんが、そのまま突然くたりと意識を失うように体の力をなくした。
「店長…っ!」
那月君が叫ぶ声が倉庫中に響いた。
烏堂さんは僕の手の中で頭から血を流しながら眠るように目を閉じていた。
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