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1.連行
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ガチャ
男がマンションの一室のドアを開けて突っ立つ僕を半ば無理矢理中に入れた。
僕は思った、こうして犯罪が起きているのだと。こうして何人もの人が行方不明になっているのだと…。
パチ、と部屋の電気をつける男の方に僕は振り向き、ポケットに入れていたカッターを手に取り、男に向けた。
「………おい。何の真似だ?」
僕を見る男の顔に怯んでいる様子はひとつも見えなかった。それが悔しくて堪らず、僕はカッターを両手で握りながら奥歯をかみ締めた。
「…そこを退け、誘拐犯め。変質者め」
「……」
「早くそこを退け……あっ!」
パッと素早く男にカッターを奪い返された。僕は男の部屋の床に尻もちをつき、四つん這いでそのまま部屋の奥まで逃げようとする。するとすぐに右足を力強い男の手に掴まれて僕はうわぁあっ!!と発狂した。
「離せ!!!!」
「うるせえなバカ野郎、今すぐ黙らねーとこのカッターでお前の大事なところ傷つけるぞ」
びく…
なんてことを言う男なんだ、この人は…。恐る恐る振り返ると、やはり先程見た恐ろしい顔をして僕を見ていた。
「なんだ、震えてるのか?よえーガキだな。」
「……」
「何か言ってみろ、もうこれで終わりか?」
「……うるさい」
「うるさい?」
ぐいっと男に突然顎を取られ顔をあげさせられた。皮肉にも、明るい電気のついた部屋で間近に見えた男の顔はとても端正な顔つきだった。
「それが命の恩人に向かって言う発言か」
はっとした時にはもう遅かった。バシンっと頬を強く叩かれ僕は一瞬頭をクラりとさせた。
「……い、いた……」
涙を目にためながらその鬼のような男を見上げた。そうだ、僕は何を期待してたんだ。本当は優しい人かも、なんていつまでも淡い期待をして。
僕は本当に、救いようのない甘ったれの、馬鹿なんだ。
「ほら、やり返してみろ」
「……」
「何か言ってみろ、俺を罵ってみろよ」
「……」
男はそれからつまらなそうに僕を見てその場を立ち上がり、僕に向かって言った。
「お前、今日から俺の犬な。」
…!!い、ぬ……?
「不服か?何もしたいことないんだろう。何も出来ないんだろう」
「…っっ」
「ならせめて可愛く愛想と尻尾振りまいて俺の気を引くくらいのことはできるようにしろよ」
なんで、僕がこんな男のためにそんなこと……
プライドなどもう無いと思っていた。でもこんな理不尽なことを言われるのがこんなにも悔しいなんて。…ちがう、こういう奴に従うのが嫌だから僕は死を選んだとも言える。それなのに、
「おい」
「…っ!」
「返事は」
…なのに、どうして。神様はなんでぼくにこんな試練を与えるんですか。ひどい、酷いよ…。
「…は、い…」
ここで普通は抵抗するんですか。反論、なんてするんですか?僕にはできない。僕には…。
「よし、いい子だ」
すると男の手に頭をくしゃりと撫でられた。不覚にもその男の手つきの優しい感触に胸をとくんと鳴らしてしまっている僕は、本当にどうしようもない憐れな死に損ないなのだ。
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