アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
10.再スタート
-
…
『……凜人』
『…心配したんだぞ、ああ本当に良かった。』
…うん…これは、夢…?
『金くらい持って出てけ…ああよかった、俺以上に怖いやつはこの世に何万といるんだぞ、いいか凜人…もうこんなことするな。絶対だ、絶対だぞ…』
誰……誰の声……?声は聞こえるのに、顔は見えない。誰?あなたは一体誰?
『また俺を、こんなふうに心配させたりしたら……その時は凜人、お前を許さないよ』
……
…ーーー
はっ!
ばっと布団を剥いで勢いよく体を起こし目を覚ました。
いま、何か夢を見ていた気がする。でも思い出せない…。
『凜人…』
…何故だろう。顔のあちこちに、人に優しく触れられたようなあたたかい温もりを感じる。…本当に夢?僕は自分の頬に手を添える。
まさかあの男が…?そう思ってすぐないない、と僕は首を横に振った。有り得ない、そうだとしてもそんなの気持ち悪すぎるっ…。とにかく、ここから早く出て行…
その時、首に感じる物に気づく。下を見下ろせば、首輪から繋がる鎖が当たり前のようにベッドの上に、床の上に乱雑に伸びている。…また逆戻りか。当たり前か、僕は昨日首輪を外された夜にここを逃げ出したのだから。
首輪に繋がる鎖はリビングの隅に固定された鉄製の物から伸びており、とてもじゃないが破壊することは不可能だ。もし逃れたとして、この首輪を付けたまま外を出歩けない。交番に行けば、事情を話せば、分かってもらえるとは思うが。…しかしこの場合どうなるんだ。僕には両親はいない、頼れる親戚も僕にはいない。兄弟も叔父も叔母も…。僕はいま22だが、きちんとした職にも就いていない。……こんな僕の言うことを信じるだろうか?死のうとしたら、男に助けられて、家で犬として飼われていると、言う…?
僕は奥歯を強く噛み締めた。ダメだ、警察は余程のことがないと動かない。それに何かよほどあの男に酷い仕打ちをされたわけでもない、振り返ってみれば…。1度ここに来た初日に男に頬を叩かれたが、手を上げられたのは思えばその時だけだ。相変わらず食事も与えてくれる。そうだ、不自由なことは、困ったことは、今のところない。しかし、だからといってここでずっと一生…あの男の犬として人生を共にしろと言うのか…?
確かに僕は甘ったれだ。右も左も分からない情けない成人男だ。でも、昨日もう一度生きようと思った。1からやろうと。それなのにまた男にこうして首輪を嵌められた。…僕にどうしろと言うんだ。あの男は、一体僕に何を求めているんだ?
その後、いつの間にか、リビングのソファで眠りについていた。やることが無く、眠ることばかりしている気がする。このままじゃダメだ、何かした方がいい。だって、僕は犬猫じゃない、一人の人間だから。あの男の思惑通りペットのまま終わっていいのか?自分。
「ミャァ」
立ち上がる僕の傍に昨日拾った猫が寄ってくる。
「あ、猫。」
「ミャァ〜」
「そういえば名前付けてなかったな。何にしよう?」
猫の腹の方を見てみると、オス猫だとわかった。
「うーんそうだな。お前の名前は…タマ!」
「ミャァ」
はっ…
『ふーん。じゃあタマ?』
違う、ちがうちがうちがう。違うよ、別にあの男に前にああ言われたから、だから名付けたわけじゃない。タマ、なんて猫には多い名前じゃないか。
「…っ。…や、やっぱり、トラ!」
…あれ、猫が返事をしない。
「トラ!トラ!」
「…」
あ〜もうっ躾のなってない猫めっ!
「タマ!」
「ミャァ〜」
「…!」
…畜生、お前その名前が気に入っちゃったのか。
「…仕方ないな」
僕はおいで、とタマを手招きすると胸に抱えて微かに笑んだ。
色々、問題は山積みだよ。でももう少し考えてみる。もう少しやってみる。タマ…お前はその結末を傍で見守っていてね。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 178