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42.別れ
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「………とおる、さ………」
その人は清々しいほどいつも通り、落ち着いたすました顔をして、目を大きく開く僕を見下ろしていた。
そうか。どれだけ逃げようが、たった一日で、この人に僕はいとも簡単に見つけられてしまう。そうか…。
…なんて、アホらしいの。
「帰るぞ」
僕の右腕を掴み引く透さんの手の力強さに、僕はぎゅっと眉を寄せ、顔を歪める。
「いたい…っ」
引きずられるように歩く僕の左腕を突然後ろから誰かに掴まれた。振り向くと、そこには僕の腕を掴み険しい顔を透さんの方に向ける永祐くんがいた。
「…まてよ。」
永祐くん……?
僕は、永祐くんの声に立ち止まり、ゆっくりと後ろに振り向く透さんにビクリとする。……何を言う気なの、永祐くん。
「なんだよ?クソガキ」
「…!っんだと…!」
挑発するように笑う透さんに眉を寄せて近寄ろうとする永祐くんに、僕は慌てて掴まれた透さんの手から腕を振りほどいて、永祐くんの体を止めた。
「だ、ダメだよ永祐くん…!お願いやめて」
「っ…リンさん。だって!」
「お母さんたちもいるんだよ!お願いやめて!」
「…っ…」
視界に、永祐くんの握った震える右手が見えた。
僕は透さんに再び腕を掴まれ、彼から体を離される。
「しつこいガキだな」
僕の腕を掴み、彼を見てそうひと言不機嫌そうに透さんは言い放つと、階下へと僕を連れて階段を降りていった。
永祐くん……。ちら、と振り返り僕は彼を見た。
「じゃあ、お邪魔しました。夜遅くにすみません」
外用の顔を浮かべて透さんが永祐くんのお母さんに頭を軽く下げ言った。
「いえいえいいんですよ〜それにしてもお2人が兄弟だなんて、まさに美男子兄弟ね、素敵」
…うわ、ていうかなんか勝手に兄弟とかいう設定にされてるし…このホラ吹き男…。
「ありがとうございます。それじゃ、俺たちはこれで失礼します。良い夢を」
「まあ〜っ」
…うっわ……この男の二重人格まじで怖い、つーか笑顔がキモすぎる!控えめに言って吐く!ひい、背中から寒気が…っ。
「なんだその顔」
僕の手を掴む透さんがふと振り返り怪訝そうに見てくる様子に、僕はビクッと体を跳ねさせる。
冬の外なので、辺りは真っ暗だ。
「い、いえ…別に…」
すると、ふん、と言って僕の手を引き再び歩き出す透さんに僕は慌てて足を進める。
……あれ?怒らないのかな。ハニートラップまで仕掛けて僕が家を脱走したこと…。ああ、家に帰ったらたっぷりお仕置きしてくるっていうそういうパターンかな…。やだなぁ今度は何をされるんだ、僕はこの変態DV男に…。
「何もされてねぇんだろうな?」
ビクッ
と、突然振り向く男に、僕は全身を粟立たせてビックリした。夜だからというのもあるが、そもそもこの人が顔だけで人が殺せそうな勢いで振り向いてくるからだ。…心臓に悪い男だ。
「彼はあなたと違って誠実で真面目なんだ。変な妄想しないでくれ」
「おおそうか〜てことは予想通りあいつはヘタレの腰抜け野郎なんだな」
はっはっはっ、と声を出して笑う男に僕は思い切り顔をしかめる。…出たよ性格悪いこの男の本性が。
その時、
「待て…!」
パタパタと向こうから走ってやってくる人影が見えた。…あれ、永祐くん…?
「永祐くんどうしー」
「お前は黙ってろ」
どんっと男に後ろに体を押され、僕はうわっと声を上げ転びかける。…何なんだよこいつっっ!
「…リンさんにもう手を上げるな」
!永祐くん…。
「あんたのしてることはサイテーだっ!リンさんを部屋に閉じ込めて挙句暴力を振るうだと…。今すぐ警察に行ったっていいんだぜ!」
「え、えいすけく…」
「おーおーしてみれば?すりゃいいじゃねえかよ。」
「…何だって!?」
「だが、警察は一体ガキのお前と大人の俺、どっちの発言を信じるか。物事は優位な立場にある者を支持しやすいようにできてるからなぁ」
ふっと笑う透さんに向かって、永祐くんは眉を寄せ、今にも飛びかかりそうな勢いだ。…ほんと性格悪い男。
「凛人がいないと気づいて一体どこに逃げたのかと思えば、お前の両親同伴の家、とは。はあ、ガキすぎて呆れてるよ俺は」
「…な…っ」
「お前にどうこいつを守れるって言うんだよ、ええ?ガキがガキを養えるわけないだろアホか」
「…っ」
「つまりお前はさっきから負け犬の遠吠えをしてるってわけだ。あっはっはっ、こりゃ傑作だ」
声を上げて笑う透さんに僕は内心大きなため息をつく。……ほんと驚くほどこの人性格悪い。いつか刺されるよあんた…。
「っ…黙れ!俺は…っ!」
「黙るのはそっちだな戸田永祐」
ふと透さんが真面目な声色で彼の名を呼ぶ。僕からは透さんが彼にどんな表情をしているのか分からないが、恐らくおっかない顔をしているに違いない。
「今度こいつを連れ出すような真似をしたらその時はただじゃおかない。いいな」
ふと永祐くんの顔がびくんと怯んだように見えた。頼むから、…彼を怖がらせるのはやめてほしい。
「…透さん」
透さんの服の袖を引っ張り、振り向いた透さんに僕は肩を抱かれる。それから再び歩き出した時、リンさん、と後ろから僕を呼ぶ彼の声が聞こえた。
それに立ち止まり、そっと振り返ると、永祐くんが僕をじっと見つめていた。
「…行っちゃいけない、リンさん…だめだ」
「……永祐くん…」
彼の真剣な眼差しに思わず瞳を揺れ動かす僕の視界を、横から伸びてきた透さんの手が覆い、彼の顔が見えなくなる。
「一々耳を傾けるな、行くぞ」
「…っリンさん…!」
すぐ体の向きを変えられ、透さんの手に引かれながら僕は早足で足を進める。
永祐くん…ありがとう。でももう本当にこれで二度と会えないかもね。…さようなら、僕の友だち。
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