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63.冷たい手
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「ここか」
次の日、僕は透さんが送ってくれた車から降り、荷物を後部座席から取ると、そそくさとその場から離れようとする。
「おい」
ひ…っっ。
しかし、運転席から降りてきた透さんにぐっと素早く腕を掴まれバタバタと身動きする僕。
「いいご身分だな。送ってやったのにお礼の一言も無しか?」
う…。
「…あり、がとう」
顔を下に向けてぼそりとそう話す。すると、ふと顔を上げると、明後日の方向をじっと見つめる透さんに気づく。
「ふーん。あそこがお前の働いてる花屋か」
「…!ちょ、ちょっと、乗り込もうってわけじゃないんでしょっ?」
透さんを見て焦ってそう僕が言うと、ム、と不機嫌に眉を寄せた透さんが僕を見る。
「ち、分かってるよ。言われなくても」
…ほんとかよ。
「凛人」
「…なに」
「頑張ってこい」
そうしてふいに透さんに顎を掴まれ、無理矢理顔をあげさせられる僕。すると、目の前に透さんの顔が突然近づいてきて、目を大きくさせる僕の唇にちゅ、とキスをした。
「…!?」
「帰りも迎えに来るからな。終わった時間に連絡しろよ、必ずな」
透さんはそう言うと、バン、と車のドアを閉めて去っていった。
…何なんだあの人…ここをどこだと…公共の場で堂々とキスなんかしやがって…。ハッとして今更慌てて周りを見渡したが、そもそも人がそんなにいる様子ではないようだった。はァ、ビックリした…。
「おはようございます」
まだ少しドキドキとしながら花屋に訪れると、レジの前で接客していた烏堂さんが僕に気づいて、ニコ、と微笑んだ。
「ありがとうございました。凛人君、おはよ」
「…お、おはようございます、店長」
僕は笑顔をうかべる烏堂さんに少々警戒しながら頭を軽く下げる。
「よかった、嫌われたんじゃないかと思って、もうここに来ないかと思ってどきどきしてたんだ」
「えっ」
花をいじる烏堂さんを前に、僕はそう声を出して固まる。
「でも、来てくれたんだね。…良かった」
ビク
前髪に触れてくる烏堂さんの手を、僕は振り払った。
「…僕、仕事しにきたんです。」
「くす、知ってるよ」
「っ、…不必要に体を触られるのは困ります。僕、ここであなたの元で働いてますけど、でも僕、あなたの奴隷になったつもりないです」
微かに体を震わせながら僕が言うと、烏堂さんが僕を見てにこ、と口元を緩ませた。
「奴隷だなんて、そんな下品なものにさせるつもりはないよ。」
そう話ながら、穏やかな表情で花用のハサミで花の茎を切っていく烏堂さん。
「君は美しい花みたいなものだ。美しい、でもたまに棘があって…。君はそう簡単には落ちてくれないみたいだね。」
烏堂さんは茎を切りながら笑って話を続ける。
落ちる…?って、どういう意味だ…?
怪しんだ目で烏堂さんを見れば、烏堂さんが花に向けていた目を僕へと向けた。
「まだ他所の野蛮な男と暮らしてるみたいだね」
「…!」
烏堂さんの目つきが穏やかだったものから鋭い目つきへと変わる。
「…今朝は君をわざわざここまで送ってくれたみたいだ、あの男は一体なんだい?君にとって」
……見られてた…!この人に、…烏堂さんに見られてたんだ…っ、ということはあのキスも…。
「…あの人は」
僕は言葉の続きを言おうとして迷って、黙る。だって、なんて答えればいいのか分からない。恋人…?ただ一緒に住んでいる人?命の恩人?…それとも。
テキトーに答えればいいのに、つい真剣に考えこみ頭を俯かせる僕の頬に烏堂さんの手が触れる。頬から感じる烏堂さんの手は、背筋が凍りそうなほどに、冷たかった。
「無理しなくていいんだよ。君はあの男に良いように丸め込まれちゃってるんだね。可哀想に…」
…違う…。僕は心の中で否定する。
「俺は君を優しく大切にできる自信があるよ」
烏堂さんの手が僕の頬から首へと下がり、ゆっくりと僕の体を撫でる。…烏堂さんの目が、僕を捉えて離さない。
僕は心臓がバクバクと鳴り出すのを感じた。
「や、やめ…」
「だけど君は、他人を不必要に惹き付けるみたいだね。とても厄介だ、…どうにかして君を俺だけのものにしてしまいたい」
「っー…!」
烏堂さんの手が、僕の衣服の中に首筋から入り込むのを感じて、僕はその手の冷たさと感触にぞわりと悪寒を走らせながら身を捩ってそれから逃れた。…この人、一体何を考えてるんだ…っ!
「君は怖がった表情も綺麗だね。凛人君」
「…」
「ごめんごめん、そんなに怯えないで。俺に従業員を襲う度胸なんて無いさ。」
冗談か本音か、よく分からないことを言いながら烏堂さんはコツコツと歩いて、部屋の奥へと消えていった。……分からない、僕は未だにこの男が考えていることが。
ただの暇潰しだろうか。いや、そうだとしても僕としてはとても迷惑だ。…帰りは透さんがここにやって来る。…ああ、僕は怖い。透さんと、烏堂さんが接触するかもしれないことが、僕は怖くて堪らない。
まるで死へのカウントダウンが始まっているかのようだ…。
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