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95.眼鏡をかけた男
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透さんから、外出の許しを得た。予想だにしていなかったことだが、何でもいい。こうして普通にスーパーに僕一人で行こうとして行けるだなんて夢のようだ。
僕はうんと伸びをして、たかだか食材を買いに行くだけというのに胸を弾ませる。
ウイーンと自動ドアを抜けてカゴをカートに入れて押して歩いた時、ふとズボンのポケットに入れていたスマホのバイブ音が鳴り出した。…なんか嫌な予感。そう思い取り出してみると、やはり透さんからだった。人がいい気分の時になんだよ…。僕は心の中で毒づく。
「はい、もしもし何ですか」
「凛人、お前今スーパーにいるのか」
ギク
「……なんで知ってるのさ」
「阿呆。スマホのGPSに決まってるだろ、お前の行動は離れててもきちんと監視していないとな」
…いや、仕事をしろよ。
「そんなことしてないで、仕事して下さい。僕忙しいんで」
「仕事ならやってるさ。今は休憩」
「まだ朝の10時なんですけど…」
僕はスマホを片手に耳に当てながら野菜コーナーでブロッコリーを手に取る。サラダでも作ろうかな。
「寄り道せずに早く家に帰るんだぞ」
スマホからは透さんのまるで親のような言葉が聞こえてくる。僕はいくつなんだってば…。
「もし何かあるにしてもこんな午前から誰かが絡んでくるとかあるわけないじゃん、夜じゃあるまいし」
「馬鹿か、朝も昼も夕もないんだよ。お前はその場にいる存在だけで目立つんだから」
それはあんたの方だっつーの…。
「うわっ」
「!どうした…?!凛人っ、何かあったのかっ?」
「持ってたブロッコリー落としちゃって…」
電話口からはあ、という透さんの声が聞こえる。
「鈍臭いやつだなお前は。…ああやっぱり気になる。今から仕事切り上げて、そこまで俺も行」
「やーめーてーよっ!!ちっさな子供じゃあるまいしっっ!一々電話もして来ないでよねっ!!」
「おい凛人!待て…」
プツッと電話を切ると、僕はため息を吐いた。結局監視されてるのか…、最初から分かってたような気もすることだけれど。朝からそう変なことに巻き込まれるわけないでしょ、まったく。
買い物を終えた僕は、スーパーを出て歩く。このスーパーはマンションのすぐ近くにあるお店の為、徒歩でも行けてすごく便利なのだ。
(今夜はカレーとサラダを作ろう〜)
てくてくと歩道を歩いていると、ふいにぽんぽんと肩を叩かれた。疑問に思いながら振り向くと、そこには何やらニヤついた顔をした男が数人僕の目の前にいた。い、いかにも悪そうなチンピラ男たち…!なんで朝からこんなところうろついてんのさぁあ!!寝てろよッ!
「やあ君かわいいね、ここら辺に住んでる子?」
「俺たちと一緒にお茶でも飲もうよ。ね、ほら」
…!
口々にそう言われ、すぐ腕を掴まれる。
まずい、何かトラブルを起こしたら今度こそ僕は透さんの怒りを買うのに…っ!ていうか今後1歩も外に出られなくなる!こんなヤツらなんかにそうさせられてたまるかっ!
「行きませんっ、離してください…!」
何とか足をふんばって体を動かし抵抗してみるが、相手は3人。元々家にばかりこもっていた非力な僕が敵うわけもない。ああもうっ何でこんな時に人が全然歩いてないのっ!車も全然走ってないし、一体どうすれば…。
「大人しくしろっ!」
ビクッ
「俺たちがたっぷり可愛がってやるからさぁ」
口端を上げた男にお尻をいやらしく撫でられるその感覚にゾワゾワと鳥肌が立つ。…き、気持ち悪い……っっ…!
「さあ来い!」
「いやっ!…いやだ!!離せ!はなして!!」
…助けてっ!誰か……!
『寄り道せずに早く家に帰るんだぞ』
……透さん……
助けて……
透さん、…助けて…っっ!!!
「ナンパするにはまだ早いんじゃねえか?」
…!
突如聞こえたその声に僕含め僕の周りにいた男たちも一斉にそちらへ振り向く。そこには、眼鏡をかけて薄ら口元に笑みを浮かべるスーツを着た男の姿があった。…この人、誰…?
「誰だお前は!とっとと失せろ!」
「生憎失せられないなぁ。その子をどうするつもりだ?お前ら」
「お前に関係ないだろ!」
「それが関係あるのさ。その子の知り合いは俺の会社の上司でもある。その子に何かあれば…お前らは殺されてしまうぞ、世にも怖〜いその男にな」
眼鏡をかけた男はそう言うと、おもむろにこちらに歩み寄ってきた。そして、僕の体から男の手を離すと、一瞬で男どもを次々に倒していった。
……な……、この数秒で一体何が……?
地面に倒れている男たちを前に僕はあ然とする。
「たく、感謝して欲しいくらいだぜ。殺されずに軽く殴られる程度で済んだことに」
眼鏡の男はそう言うと煙草を口にくわえた。それをじっと見ていると、男の視線が僕へと向いた。
「あ…えっと、ありがとうございましたっ!助かりました」
すると、煙草を口から離した男が僕を見てふっと笑う。
「君、その容姿じゃ1人で歩くと危ないぞ。もっと自分のことを理解した方がいい」
男はそう言ってふう、と煙を吐く。
「たまたま俺が通ったから良かったものの、どうなっていたことか」
た、確かに…。
「でも君のことをこうして初めて見て、納得した。」
「え?」
「はは、あの人嫌いとまで言われた男がああも惚れるわけだな。とても魅力的な容姿をしている」
そう言う男の手が僕の顔に触れようとするのに気づいて、僕はその手を振り払った。
「あっはっはっ、気も強いってわけか」
眉を寄せ睨む僕を見て何故か男は機嫌が良さそうだった。一体なんなんだ…っ!
「でも、本当に気をつけろよ。透がそばにいないなら安易に出歩かない方がいい。」
え、透……って、まさかこの人透さんの知り合い…?
「君のことは何も知らないっていうのに、何故だろうな。一目見て君があいつのずっと何年も想っている相手だと、すぐに分かってしまった」
「え……」
何年も想っている相手…?一体何の話し…?
「君がそれだけ存在感があったってことかな」
そのまま去ろうとする眼鏡の男を僕は呼び止める。
「まってっ!…あなたは誰?透さんの、何なんですか…?」
男は煙草を口にしながら口角を上げて言った。
「うーん。そうだなぁ……ああそう、友達だ」
「…友達?」
「ああ、透の友達さ」
そう意味深に笑って言う男の言葉に僕は目を大きくした。透さんの友達…?
なら、もしかしたら、透さんの昔のことも色々知っている人かもしれないということ?透さんがあんなふうに…悪魔のようになってしまった原因を、もしかしたら、この人なら知っているかもしれないということ…?
ポケットに入れていたスマホからブーブーとバイブ音が再び聞こえるのが分かった。
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