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105.迫られる選択
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ガチャ
男の帰る音が聞こえた。
僕はゆっくりと目を覚まし、朦朧とした頭で暗い天井を見つめた。
…とても重要な夢を見ていた気がする。けれど何だったかは、思い出せない。
「凛人」
僕の部屋のドアを開け、電気をつけないまま男が横たわる拘束された僕へと近づくのがわかる。
「今帰ったよ、会いたかった」
そう言って男にぎゅ、と両手を上にあげ横たわったままの動かせない体を抱きすくめられる。
頭は未だ朦朧としている。
「凛人、流石のお前も1日この状態はキツかっただろう?はは、どうやら何もお漏らしはしてないようだけどな」
「…」
軽快に笑う男の手に頭を宥めるように撫でられる。ああ、…数時間ぶりに触れられる人の手の感触になぜだかひどく心地よいと感じてしまった。もしや、この男だから、なんだろうか。いいや、これ以上の悪い冗談はよしてくれ。
「反抗しないお前はかわいい。元々すぐ牙を向ける性格のお前がこうなったのは俺のせいだ、そうだ俺がお前を教育してやったんだ。」
「…」
「何故何も言わない?そうしてお前なりに意地でも張っているつもりか。もうよせ、観念しろ。そもそも俺はお前を傷つけたくてお前をものにしようと思っているわけじゃない。誰でもいいわけじゃない、お前だからなんだ。お前のようなやつは他に居ない、世界中の何処を探しても…。だから凛人、いい加減首を縦に振るんだ。」
男の手にくい、と顎を上にあげられ目線を合わせられる。暗い部屋の闇夜に青白く光る男の鋭い眼光が、僕を貫くように見ていた。
「さあ…言え」
「……」
「俺のものになると……ーーーー」
…
何度、この人とこんなやり取りを繰り返しただろう。半年以上経っても、未だに僕はこの人にこの仕打ちをされる扱いだ。僕は今まで何をやっていたのだろう。
この男にほだされていた?
ああ、そうとも言える。僕はこの男に手懐けられ、陥れられ、今こうしてこんなところまで落ちてしまっている。でも今更、引き戻れない。
そうだ、僕が望んだ。何もかもを…。
この人と生きようという選択を、僕は無意識に自ら選んでしまっていた。生死を彷徨っていた僕は、この人に救われてしまった。ただの偶然だろう、この人の気まぐれだろう、暇つぶしだろう。だけどそんなこと、ほんとはどうでもよかったんだろう。
僕は今何をすべきか、じっと目の前にある支配欲に満ちた男の顔を見つめ返しながら思う。
はいと答えれば、僕は一生このままこの人と何年もの間、一生こんなふうに互いに睨み合いながら一緒に時間を共有していくのだろうか。それとも僕は一生この男の奴隷か?はたまた、男が優しくなるのだろうか?
いいえと答えれば、そのあとの展開はもう分かりきっている。
けれど、僕は各々の選択先の答えをある程度把握しておきながら、まだ何も言えないまま。
特に迷っている、わけではない。
承諾するわけがないし、この男のものになるなんてあんまりだ。しかし、拒否するのも何か違う気がする。
ならば僕は一体どうすることを望んでるのか。
…僕は屈する訳にはいかない。いいや屈したりなどこの人に僕はしない、一生。しかしー
「……!」
僕はそっと男の体を抱き締めた。
僕は散々酷いことをされても言われても、この目の前にいる人を憎みきれないまま…。
僕はこの人の思い通りになるつもりはないが、僕がしたいと思うことはある。
そうだ、この人に振り回されるばかりでなく、僕がこの人の心を、気持ちを揺さぶらなければ。
何故こんなことを思うのか、わからない。だけど僕がしなければ、この人はおそらく一生暗闇に囚われたまま…。
あなたのことなんて何もわからないのに、僕どうして…この人を見ると、たまにこんなに悲しい気持ちになるんだろう。
いつから?僕はいつから、この人をこんなふうに思うように…。
どうしてこの人のことを、憎みきれないのか……
これは単なる同情、なのだろうか?
胸に引き寄せた透さんの顔がどんな顔をしていたのか、その時の僕には、分からない。
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