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106.攻防(透side)
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「ぼーっとしてる」
いつも通りの社内の中。目の前に現れた見知った顔と吐かれた言葉に対し、俺は無言でじっと見返した。
「おい何だよ透、最近のお前何だか妙だぜ?」
腐れ縁である間違っても友達ではない朔夜はやれやれといったあからさまな表情をし、両手を広げて肩を竦めてみせている。
「放っておいてくれ」
「そうはいかないさ、何かに悩んでる透ほど怖いものは無い。無論あの子関係なのは承知のつもりだよ。けど、お前の愛し方って…、どこか異常じゃないか」
「…異常?」
「そうだ。俺はあの子と多少なりにも会話してしまったからな、あまりに透があの子を拘束するようなら流石の俺でも少しくらいは胸が痛むってもんよ」
「なんでお前が関わってくる必要がある。必要以上に深入りしてくるな、邪魔だ」
「関わるとか関わらないとか、そういう問題じゃなくて…」
俺は椅子から立ち上がり、バンッと机を叩いた。
強く目の前にいる顔馴染みの男の顔を睨みつけた。
「うるせぇな、外野は黙ってろ!これは俺とあいつの2人だけの問題なんだ!」
「…何をそんなに苛立ってんだよ」
「黙れ!!!」
俺はハァハァと息を乱した。
頭の中で、昨夜のことを思い出していた。
……
「……な……」
俺はあいつの腕の中で大きく目を開いていた。
…まさか今俺は凛人に抱きしめられている?なぜ。
情けなく心臓がどくどくと大きく音を立て荒だっていた。
いや落ち着け…。そうだ、これはこいつの罠なんだ。前回も似たようなことをこいつにされたことがある。好意を向けるような言葉を囁かれ、誘われ…。
ああ、そうだ。つまりこれは、俺が引っかかるかどうかをこいつは今試している。そうだ、そうに違いない。もしそうでないならば、他になんだと言う?
「……はっ……それがお前の作戦か?」
凛人から顔を上げ、暗がりに映る凛人の顔を見下げて、口端を上げて皮肉たっぷりに言う。
しかし俺はこちらを真っ直ぐ見つめてくる凛人の瞳にほんの少し気持ちを動揺させた。…なんだ?なぜそんな顔をする。…どうしてそんなに悲しい顔をして俺を見る?
…ッ……何故だ………!
「うぅっ」
俺は咄嗟に凛人の首を手で掴み力を込めた。凛人はこちらを見て苦しそうな顔をしている。
「アッハッハッハッハ、いい格好だ凛人、ええ?そうだろう?」
「…っ」
俺がさらに力を込めれば、目の前の凛人はより一層苦しそうに呻き、出ない声を出した。
「凛人…、いい機会だ、ここでお前にもう一度きいてやろう、お前の生と死がかかった最後の俺に対する答えを…!」
ぎりぎりと強く首を絞める手に力を込めた。
「……言え、…俺のものになると言え……!」
凛人は俺に首を締められ苦しそうに身動き出来ない体を暴れさせてから、消え入りそうなか細い声で言った。
「………ひ…っ…ら、なぃ……」
…!……なに……。
「…なら、ない……っっ…」
俺が少し力をゆるめると、凛人はそう言って声を出し、鋭い大きな瞳で俺を睨みつけてきた。
「…あんたのものになんて…ぜったい…いっしょう……ならない!!!!僕はっ…絶対に…っ…」
「……っ」
「あんたに何をされようと…っっ…僕はっ…僕は……絶対にっ……」
俺は下から燃えるような瞳で見つめられる凛人の強い意志に半ば飲み込まれかける。
……何故だ。
なぜここまでやっているのに、こいつは、折れないんだ。そんなに自分が大切か、かわいいか。それともそれはやはりお前のプライドか?お前はもしかすれば俺にこれから本当に手にかけられて殺されるかもしれないんだぞ。ああ…そうだ、殺してやったっていいんだ、本当に。
そうすれば、もうお前とのこんな不毛な関係……もう続けなくて済む…ーー。
「…っぁ!」
俺は緩めていた手に再び力を込めて、凛人の首を締め付けた。凛人は天井を見上げ、ひたすらに呻き声をあげ続けている。
「どうだ苦しいか?苦しいのか凛人!!」
「…ぅ…うぐ…ぁ…」
ーーー……まずい。
このままでは……本当に死んでしまう。…凛人、なぜ俺に懇願しない?なぜ俺に、泣きついてやめてくださいと言わない?俺のものになると、そう言えばいいだけの話だろ…!
「……ぁ……ぅ………」
じたばたと動かせない拘束されていた体を動かしていた凛人の暴れようが少しずつ収まっていく。俺は虚ろな目をする凛人を見、我に返るように瞳を大きくさせた。
「………り…、……凛人………っ!」
……ああ………
…ああ……俺は…、…俺は….、……なんてことを…………。
俺は凛人の首から手を離し、手足の拘束を外し、まだ微かに息をしている気を失って瞳を閉じる凛人の体を抱き締めた。
…
………好きなんだ……
俺は目を閉じる凛人の顔を見ながらぽたぽたと涙を下へ向かって零した。
好きなんだ、…愛してるんだ、お前のこと……
それもこれも全部ひっくるめて、俺お前を愛してるんだ…凛人………お前がただ、ただ…
お前が好きなんだ………
ただ好きなんだ、ずっと…。お前のことが…
俺はお前が好きなんだ………っ…
なのに…どうして俺のものになると言わない、凛人……!
……
…凛人…もしやお前は、俺の心を見透かしているのか?
だからあの時お前は俺をあんなふうに抱き寄せたのか?
会社から見える外の景色は既に真っ暗だった。
「…ん?」
家に帰ろうと席を立ち上がった時、不意にブルブルとスマホが振動した。知らない電話番号からの着信だった。
凛人…これだけは信じてくれ。
俺はお前が好きなんだ。
空に浮かぶ青白い月をしばし見つめ思った後、俺はゆっくりとスマホを片耳へと当てた。
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