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107.最後の願い
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ーーー
「ふぅ…」
透さんが会社に向かったその日、僕は食卓の席に座り息をついた。
前は危なかった…。透さんに割と本気で首を絞められ本当に殺されるのではないかと恐怖した。しかし、次の日目が覚めた僕は、拘束も全て外され、自由の身へと変わっていた。しかし何も言われてはいないが、外出は恐らくいや確実に禁止だという意味をあの人に言われなくとも暗黙の了解で最早わかってしまうのは、あの人とそういう生活をずっと繰り返してきてしまったせいだろうか。
けれどまだ、マシだろう。一日中縛り付けられるのはさすがに辛かった。
(それにしても…)
僕はあの日の透さんのことを頭に思い浮かべた。
いつも通り、だったはずの透さんが少しばかり動揺したのは事実だ。途中から首を絞められて気を失ってしまったからその後のことは何も分からないが。
なんだろう。
自分の中で、あの人を何らかのものから救いたいと思う気持ちと、単純に怖いと思う気持ち、逃げ出したいと思う気持ち、…色んな気持ちが交錯する。
そうだ、本来一刻も早くあの人の元から逃げることが僕の目的だったはずなのに…。けど今は違う。少なくとも逃げるためにはあの人を、あの人自身を変わらさせなきゃーー。
僕の持てる力で。それは僕の為に。…透さんのために。
ピンポーン
(……?)
ふとインターホンの音が鳴った。今は午後の2時くらい。一体誰だろ…?勧誘の人かな。
モニターには何も映ってない。ああそうだ、妙だと思ったらこの音、オートロックの時に聞こえる音じゃないんだ。つまりこの音は扉を開けたすぐ先からの音。…嫌な予感が胸を過る。一体誰なんだ、扉を開けたすぐ先のところにいる人物は。
…けれど、開けなければいけない気がする。これは勘だ。ただの僕の勘だ。だけど…気になる。
「…はい」
チェーンをつけて慎重にドアを開けてみる。恐る恐る辺りを見回すと、3人ほどの男の姿があった。
「どうも」
1番近くにいた男ににこやかに話しかけられた。
「…誰ですか?あなたたちは」
僕は軽く睨みを利かせて男たちを見る。
「やだな、そんなに警戒しないでくれよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
きも…っっ!
僕は少々の悪寒を走らせながら負けじと男を見返す。
「で、何の用なんですかっっ」
「クス。いやぁ実はさ、…君の大事なここに一緒に住んでる男が今大変な事態みたいだよ〜」
……え?
大変な…事態…?
「……い…一体どういうことですか……」
ドクン、僕は嫌な予感を感じ大きく鳴る胸の音に気付かないふりをして瞳を彷徨わせる。…まさか、あの人が、…透さんみたいな人がヘマをしでかすわけが…。いや、しかし……。
「俺たちも詳しいことはよく知らないんだ、でも君には伝えた方がいいと思ってね。」
「……」
…妙だ。何でこの男たちは僕に伝えた方がいいと思ったんだ?透さんがそう言ったのか?でもあの人が、わざわざ僕にこうして他人を仕向けるようなことをするだろうか。些細なことで子どものように嫉妬して時には激高する彼だというのに、こんなこと…果たして有り得るのか。そもそもこいつらは一体…?
「何やってんだよ。もたもたしてるとお前の大事なヤツ、…ヤバいぜ?」
僕はニヤついた顔でこちらを見て話しかけてくる男の顔を見上げ、真剣な瞳で尋ねた。
「…やばいって、どういう…」
僕は急速に不安で速まる心臓の音に疑問を抱きながら、胸あたりの服を手で強く掴み抑えながら最早祈るような気持ちで目の前の男の顔を見つめていた。
男は動揺する僕を見て、にぃと口角を上げて言った。
「君が一刻も早く向かわないと……………君の大事な大事なあの男…………殺されちゃうよ?」
ーーーー…!!
考えるより早く、体が動いた。最早思考を停止させられた、と言ってもいい。
僕はチェーンを外し、男たちの前に立った。
「……行きます。連れてって下さい」
空が不穏な雨雲に覆われていく。
僕の心はいつも、矛盾している。そしてそれはあの人も…。
透さん…また勝手に家を出ちゃった。戻ってこれるかな、次また…この家に。
黒かもしれないと分かっていても、前に進むこの足を僕は止められない。
…透さん……僕は結局どうしたいのかな。あなたのことを救いたいなんて…そんなのは結局綺麗事なんじゃないかな。ただ、今はすごく…あなたが殺されるかもしれないと聞いて、胸が苦しい。これは何なんだ?この感情は…。
…今…行くから、だからお願い。神様これがきっと最後のお願いです。あの人を、透さんを…どうか、死なせないでください…ーーーー。
僕は切に願った。
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