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110.人質
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「あの…」
渡された服を着て、僕はゆっくりと神崎さんの元まで歩み寄って声をかける。
ホテルの窓から見える外の景色から、もう夕方を迎えていることに気づく。
「なんだ」
神崎さんは開いた新聞から目を離さずに返事をした。
「僕…いつまでここにいるんですか?」
「何でそんなことを聞く?急用でもあるのか」
「…いえ、別にそうじゃないですけど」
「そうじゃないなら聞くな。黙って大人しくしてろ、俺はそう言ったはずだ。」
新聞から目を離しその場を立ち上がった神崎さんの鋭い目に軽く睨まれた気がして僕はびく、と怯む。
「……そう、…ですけど」
「…」
「スマホも何も無いし、何もすることなくて…暇だから。テレビつけていいですか?」
勝手にしろ。すると、神崎さんはそう言い再びソファに息をつきながら座り直した。
僕も神崎さんの近くにあるソファに腰を下ろしテレビを見だした。
それからちら、と何も言わない男の様子が気になって横目で見てみると、神崎さんは新聞を閉じたまま目線を下に向かってむけどこかぼうっとしているようだった。
「…あの、どうしたんですか?」
「…は」
「その、元気無さそうだなって思って」
僕の声に瞬時に顔を上げた男は、軽く眉を寄せ、ふん、と言い顔を逸らす。
「馴れ馴れしく話しかけてくるな。お前自分の立場分かってるんだろうな」
「わかってるけど…、気になって。」
すると男はこちらをじっと見、観察するように僕へと視線を向けている。
「なるほどそうか、お前俺の事をハニートラップか何かを仕掛けてあの男を救おうとしてるな?」
「え…」
ニヤリと勝ち誇ったような顔をして話し出す男に僕は目を点にする。なるほど、そういう方法があったね…て、バカっ!
「しかし俺を甘く見るなよ、俺はそんなもんで揺らぐようなことは一切ない。」
「…どうしてそう言い切れるんです?」
男はふ、と小バカにしたようにして笑う。
「ふざけたことを抜かすな。俺はあの男のことをずっと考え、これまで生きてきた。思い出さなかった日は恐らく一日として無かった。」
……えっと、それは…つまり……
「つまり、透さんが好き、なんですか?」
「そうそ…て違うっ!!」
…あれ。
裏を返してそうかも、なんてほんの少しの可能性をかけたが、やはり違ったか。
「ごめんなさい」
「…何なんだお前は…」
神崎さんは片手で自分の頭をグシャグシャとしながら困惑した顔で僕を見てきた。
「そもそもこの状況になっても、いや…さっきあんな事があったというのにどうしてそうも平気そうなんだ?」
「あんなこと?」
「…だから、犯されかけていただろ。」
視線を逸らしながら話す男の言葉に僕は、ああ、と声を漏らす。
「確かにすごく怖かったけど、あなたが助けてくれましたし」
「…!…俺は、別にお前を助けるつもりであんなことしたんじゃ…っっ」
「わかってます。でも、僕は助かったから。あなたが敵とかどうとか、透さんと何があったのかとか、そういうのはよく分からないけど」
でも、もしかしたらこの人は…そこまで悪い人ではないのかもしれない。
「ありがとうございます。」
ぺこり、頭を軽く下げにこやかに笑って言うと、神崎さんは戸惑った様子を見せた。
「…お前、変なやつだな」
ふい、とそうしてすぐ僕から顔を逸らす男の姿はどこか透さんを連想させた。
ーーだけど、この2人は全然違う…。
透さん……。
刻々とその時が迫ってきている。
とても今不思議な気持ちだ。あの人が僕の元に来るのかと思うと、少し怖く、少し嬉しく、僕は胸を苦しませている。
その時が来た時、僕はあなたを守るのだろうか?それとも、僕はあなたを……
もう辺りは暗くなり始めている。
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