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113.復讐、憎しみ
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お前をあの世に葬ってやる、神崎さんのその言葉に我に返るようにハッとして僕は透さんの方へ振り返った。
するとそこには、僕を見て酷く驚いた顔をする透さんの姿があった。
…透さん……そんな目で僕を見ないで。
…僕だけがまるで悪者、そう思わせる目で僕を見ないで。
もう、何をどう判断すればいいのか、僕にもわからないんだ。
でも……
「ぐっ…!」
突然耳に聞こえた声に僕は瞳を大きくさせる。手を後ろ手に拘束されその場に座り込む透さんが、神崎さんか他の男たちか誰かに恐らく殴られ漏れ出た声だ。
振り向いて見た時には、捕らえられ座り込む透さんの周りには神崎さんを中心に男たちが指を鳴らしながら立っているのが分かった。
「まさか本当にお前に復讐できる日が来るとは…。それもこれも自ら恋人なんていう甘い弱点を作ったお前の責任だぜ?」
男の言葉を透さんたちとは1歩離れた場所で聞いていたその時、突然後ろからまだ他にもいたらしい男に僕は腕を捕らえられる。
「…何するんだっ!」
僕はそれに強く抵抗し、声を上げ、体を動かす。
「黙ってろ!お前にだけは逃げられたら困るんだよ」
…畜生っっ。僕は睨みをきかせながら男を見る。
その時ふと視線を感じて振り向くと、拘束された透さんが僕のことを見ているのが分かった。
それから神崎さんが透さんに向かって言った。
「さあどうする。自分の身を優先するのか、もしくはあのガキを優先させるのか…。昔から自分勝手に好き勝手にやってきたお前がどういう解答を下すのか…とても興味があるなぁ」
ニヤついた顔でそう尋ねる神崎さんの問いに、透さんはおもむろにゆっくりと落ち着いたように瞳を閉じた。
…?…透さん…?
すると、しばらくして目を開けた透さんはスっと男に捕らえられた僕へと目線を移動させ言った。
「ああ、好きにしてくれ」
「…。…は?」
「俺のことは好きにしてくれて構わないと言ってる。だが…」
透さんは目線を下にしながらこう言った。
「…あいつにだけは、凛人にだけは、何もしないでくれ」
……え……?
僕は透さんの発言に耳を、目を疑った。
…何を言ってるの?それがあなたの本音なの?……違うでしょ、何言ってるの?透さん。
……今更……何いい人を装っているの?
そんなのあなたじゃない。まさか、僕を庇ったって言うの…?
……ねえどうして…?
どうして、透さん…。僕は、あなたをこの人たちと一緒になって陥れようとした最低の男なんだよ?なのに、…なのに、…どうして…?
どうして……。
「…ぅっ!」
透さんが神崎さんに蹴られ呻く。僕はいよいよ始まってしまったその悲劇に顔を手で覆い瞳を思わず瞑った。
…透さん…
「…それがお前の答えか、ハッハッハッハッ…!…まさか、お前あのガキにそんなにも入れ込んでいるのか?あっはっはっはっはっはっ、………笑わせる。」
それから、透さんが男たちに囲まれてひたすら蹴られ殴られる音が続いた。僕は何も出来ず、ただ目の前のその光景を受け入れられず、信じられずに、体を震わせていた。
…透さん……だめ、やめて…、もうやめて…!
僕は心の中でそう叫んでいた。
「なぜ俺が、俺たちが、お前にこんなことをするのか分かるか?」
神崎さんが口端から血を流す透さんを見ながら言った。
「……さあ」
ふ、と笑いを含んだ顔で言う透さんの胸ぐらを神崎さんが掴んだ。
「ここにいる奴全員、お前に何かしらの恨みがあるからさ。…本当ならお前を、本当に殺してやりたいくらいにはな」
そう言って神崎さんが透さんを殴る。顔を横にさせ一瞬ぐったりとする透さんの姿を見てしまった僕は、声にならない声をあげる。
…やめて……、お願い…。やめて…
「………もうやめて……神崎さん」
僕は男に腕を捕らえられながら、耐えられず、請うように言う。神崎さんはこちらへちらりと振り返り、透さんを手から離した。
「なぜそんなことを言う?」
神崎さんが僕の方へ体を向けながら話し始める。
「だって……」
「この男が可哀想か?」
神崎さんがそう言いはっと笑う姿を、僕は瞳を揺らして見つめる。
「お前には分からないさ。お前はこの男の狂気的な部分を知らないんだろ。ぬくぬくとこの男にただ愛されてきたんだろ、だから思わずこの男を庇いたくなる」
ちがう……。僕は心の中でつぶやく。
本当に優しいことをされたのなんて、ほんのひと握りだけ。多分この人に酷いことをされたことの方が多かった気がする。だけど、それでも…違う。
やっぱりこんなの、…間違ってる。
「神崎さん…聞いて、僕の話を…」
「ーーー黙れ!!!」
ビク
目の前には、鬼の形相をした、怒りの表情を露わにする神崎さんの姿があった。
「ならお前があいつを連れ帰ってくれるのかっ!?」
え…?あいつ……?
「あいつは…あいつはなぁ、誰よりも良い奴で、優しくて、生真面目で…俺にとってなくてはならない存在だった。そんなあいつに、何も悪いことなんてしていないあいつに…この男が何をしたのか分かるかっ!!?」
神崎さんは声を上げて僕を見ている。
「ただの通りすがりだったあいつを、こいつは自分の気分が悪いからってその理由だけで巻き込んで好き勝手に暴力を奮って、そのお陰であいつは入院。しかしこいつは罪に問われなかった、未成年ということもあって結局有耶無耶になっちまった…。」
「…」
「あの日からあいつは片足を痛めてそれまで好きでやっていた陸上もできなくなった。あいつはこいつにされたことへの恐怖、トラウマと、動かない自分の足、その全てに思い悩み、苦しみ、日に日に鬱状態みたいになっちまって、…俺が気づいたその時にはあいつはもう…この世界から命を絶っていた。」
…殺された、というのは、…そういうことだったのか。
僕は目の前で堪えきれない憎しみを全身から溢れださせるその人を見て、胸を痛める。
「お前に、お前らに…俺の苦しみが分かるのかよっ!!!!」
神崎さんは後に、その場に膝を着きながら頭を垂れた。
「…神崎さん…」
「………返してくれ……。…できるのなら、あいつをここに、……返してくれ……」
分からない…。何が最善なのか。正しいのか。
僕は神崎さん、そして傍でハァと眉を寄せ息をしながら地面に尻もちを着く拘束された透さんの姿を見つめた。
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