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115.優しいキス
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あの後、僕たちのただならない事態をどこからか耳に聞きつけやってきた朔夜さんが近くの病院まで透さんを搬送してくれた。
「透さん…大丈夫かな」
手術室に入っていってしまった透さんの姿を見送った僕は、病院の椅子に腰掛けながら眉を下げて話す。
「見た感じ、二の腕をかなり深く刺されてたみたいだ。命に別状はないだろうが、もしかしたら何らかの支障があるかもしれない」
「え…」
目線を伏せ、何か考えるような表情をして傍に立つ朔夜さんを僕は見る。
その後、しばらくして手術を終えた医師が僕たちの前に現れて言った。
「終了しました。もちろん、命に別状はありませんよ。ご安心してください」
にこりと微笑みかけてくる医師の言葉に、僕は心をほっと安堵させる。
「透さん…!」
個室にいるという透さんの元まで行き、僕は部屋のドアを開けて駆け寄って声をかける。
透さんはベッドの上に右腕に包帯を巻かれ、横になっていた。
「凛人」
透さんが視線をこちらに向けてそう放った。…良かった、全然平気そうだ。本当によかった…。
「今、何時だ?」
「もう夜中の3時辺りを過ぎてる」
透さんの問いに、後ろからコツコツと靴音を立ててやってきた朔夜さんが答えた。
「なんでお前がいんだよ」
「おいおい、命の救世主になんてこと言うんだよ。ひでーなぁ」
「別に腕を刺されただけで死ぬわけねーだろがよ」
ふん、と顔を横に逸らす透さんの姿に僕は薄く笑む。いつもの透さんのようだ。
「透さん、本当に良かった」
透さんの傍に置いてある椅子に腰掛けて、僕は笑いかけながら話す。
「腕以外にも色々処置を受けたみたいだね、体、大丈夫なの?」
だってあんなにたくさん殴られていたんだもんね…。
「はっ、こんなもの大したことないさ。屁でもない」
「え?」
「ま、透の昔の学生時代を思えばこういうことはなくもなかったしな。殴り殴られ、そんなもんだったからな」
そばに立ち語る朔夜さんの話に僕はえぇ…と困惑した顔色を浮かばせる。透さん、どんだけヤンチャな学生時代を過ごしていたのさ…。でもそっか、よく考えてみたら、元暴走族の元総長様、だもんね…。
「それで、アイツらは?」
そうしてふと、スっと目を細めた透さんが辺りを見回しながら言い、僕はそれに心臓をドキリとさせてしまう。
「あいつらって…神崎さんたちのこと?」
「ああ、そうだ」
体を起こしながら話す透さんに僕は手を貸しながら不安な表情を浮かべる。
神崎さんたちに、…なにか仕返しでもするつもりなのかな。
「アイツらなら、もう少ししたらここに来るんじゃないか」
え?
傍で淡々と朔夜さんがそう話す。
「今は事情を色々とサツに聞かれてるんじゃないか。まあ凶器まで使って刺してるわけだからな」
ということは神崎さんが…捕まるかもしれない…?
僕はぎゅっと胸のあたりの服を握った。
「警察か…。」
透さんはそう呟き、思考を巡らせているように見えた。
「まあいい。あとでそいつに話があるんだ」
話…。一体どういう…。
「そうか。じゃ俺はそれまでそこら辺テキトーに夜の散歩でもしてるかな」
「いやお前はとっとと帰れよ」
「じゃ☆」
朔夜さんは透さんを無視して夜の散歩、とやらに出かけてしまった。
あの人、本当に色々と性格の掴めない人だなぁ…。多分…良い人なんだろうど、でもヤクザなんだよね…今回のことだって一体どこから聞きつけてきたのやら。
「凛人」
ドキ
突然かけられたその声にびくりとした。
「な、なに」
振り向くと、右腕に包帯を巻いた透さんが真っ直ぐな目で僕の方を見ている。
「お前には、心配かけたな。」
え…?
透さんがそうして目線を軽く下へと落として言った。
「…すまなかったよ。」
俯きそう呟くように話す透さん。
僕はそんな透さんを見て、瞳にじわりと涙をためた。
「…透さん」
涙を流す僕を透さんが再び真っ直ぐに見た。透さんは、涙を流す僕の頬に左手を当て僕の顔を傾けると、いつぶりか分からない優しいキスをされた。
透さん、もう、ダメだからね…。
もう絶対、誰かに恨まれることをしてはだめ…
わかってる?
ちゃんと約束してね、絶対だからね、透さん…。
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