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116.真実
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それからしばらく経ったあと、ふいに病室のドアが開かれるのがわかった。
ちらと振り向くと、そこにいたのは
「…神崎さん」
僕は後ろに数人の男たちを引き連れやってきた神崎さんの姿をその場に立ち上がって見た。
…て、あれ?
「か、神崎さん、その傷…?」
僕はよく見ると口端を切れさせている神崎さんの傷に気づいた。それに、後ろにいる男たちもなぜだか痛々しいほどの傷を負っている。い、一体彼らに何が…。
「それは、あいつらが負わせた傷さ。」
すると、これまたどこからともなくタイミングよく散歩から帰ってきた朔夜さんが現れると、僕に向かってそう教えてくれた。
でも、あいつら…って?
「例え透がアイツらのことを無下に思ってようが、アイツらにとっては透は今でも立派なリーダーなんだよ」
コートに手を突っ込んで話す朔夜さんに、僕は少しの間をあけてから、ようやく納得するように頷いた。
…そうか。朔夜さんのアイツら、というのは、恐らく透さんがいた元暴走族メンバーの人たちだ。
一般人である僕にはそうゆうのはよく分からないけど、自分たちのトップが傷を負わされて腹を立たせた、みたいなことなのかな?
…どちらにしても、物騒なことに変わりはないけどな…。
「はー…余計なことを」
透さんは全てをすぐ察してか、そう言い片手で頭を触っていた。
「まあま、お前のことをそれだけ愛してるってことさ。アイツらも」
「気持ち悪ィことを言うな」
それにしても、ほんとに仲良いなこの2人…。どこからどう見ても、友達にしか見えないんだが。
「それで」
ふと真面目な顔つきをした透さんが体勢を少し整えながら言う。
「神崎、だったか。お前」
「……ああ。」
途端に2人の間にどこか張り詰めた、ピリピリとした緊張した空気が流れる。
…当然だ。神崎さんは透さんに巻き込まれて大切な人を失った。透さん…そんな神崎さんに一体何を話すつもりなんだ…?
「…俺は謝る気は無いぞ」
神崎さんがまずそう答えた。
神崎さんの下ろされた手のひらの拳は固く握られている。…緊張している様子が僕にもわかる。
「俺は…親友をお前に奪われた…。俺は、お前に命を奪われたんだ…っっ」
声を上げる神崎さんの言葉は、心に重くのしかかる。何があっても決して許されることではない…透さんのしたことは。
だけど…だけど僕…、僕はそれでも、この人のことを……。
「待ってくれ。その話、俺も参加していいか」
2人の間の沈黙を破ったのは、眼鏡の奥から真剣な眼差しを向ける朔夜さんであった。
「その件に関しては、確かに透が悪い。あの頃の透は荒れていた。だが、俺の調べによると、透はお前の親友の足を負傷させるほどの傷は追わせていないはずだ」
え…?
「入院したのは元々そいつの不注意で階段から落ちて足を痛めた、それが理由だったはずだが」
朔夜さんの鋭い瞳が神崎さんに向けられる。
そう、だったのか……?
「…っ…。だけど…、あいつがこいつに殴られたのは本当だ…っ!!」
「それについては確証はない。だがお前は、透に全ての責任を押し付けることで恐らく亡くした友人の悲しみを恨みに変え、紛らわせようとしていたのは事実だろう」
朔夜さんの言葉に、神崎さんが悔しむように強く唇を噛み顔を俯かせた。
…神崎さん……。
「おい待て、お前は一々口を挟んでくるな」
「だが透、俺は真実を述べただけだぜ」
「いいから黙ってろ!」
透さんはそう言うと、神崎さんに向き直った。
「神崎、俺は正直、昔いつ誰を殴ったかなんて一々記憶していない」
「…っ」
「そいつが俺のせいで死んだのかどうかはよく分からないが、少なくとも俺がそいつに手を出したのは事実なんだろう」
透さんは静かにそう言うと、ひとつ息を整えるようについた気がした。
そして、
「…悪かった。」
…え、……うそ。
透さんが……謝った?
その事実に驚いたのは恐らく僕だけではない。この場にいた、全員なはずだ。
「…な……お、お前が……謝った…だと…?…ありえない…何か罠が」
「俺は、良心なんてものはない。」
「…は…?」
神崎さんが信じられない顔をして透さんの方を見つめている。
「お前に謝るなんて、誰かに謝るなんて、ありえないはずさ。俺だって」
「…」
「だが…」
そう言ってちらりと透さんが僕のことを見た。
え…?
「もし万が一、凛人が同じような目に遭っていたら、と…そう思うと、お前の気持ちが少しは分からなくもないと、そう思ってしまったんだ」
…透さん……。
神崎さんははっと皮肉そうに笑って、透さんを見た。
「…意味わかんねえ。なんだよ、らしくもないしおらしい雰囲気出しやがって…。こいつが、…お前にとって、そんなに価値あるものなのか?」
「…ああ。」
透さんは神崎さんを再び見つめ、こう言った。
「殺されたというのが本当で、それがもし凛人なら…俺なら、ーーーー確実に相手の心臓を突くがな」
その後、病室を何も言わないまま男たちを引き連れ呆然とした様子で出ていってしまった神崎さんの姿を見て、僕は思わず出口に向かって足を進めかけ、止める。
「透さん、」
僕は振り返って透さんを見た。
「僕…あの人に話したいことがある」
「…何の話だ?」
「大切な話。透さん…すぐに戻るよ、僕。だから、少しだけ待ってて」
透さんの瞳を見つめ一生懸命にそう言うと、ふう、と透さんが折れたように息を吐いた。
「…分かった。」
僕は透さんの返事に強ばっていた顔を緩ませた。
「…ありがとう!透さん、必ず戻るから!」
僕は病室のドアを開け、駆け足で出ていった。
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