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121.喧嘩(透side)
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「順調そうだな」
社内の廊下を歩いているとすれ違った朔夜にそう話しかけられる。
「まあな」
「うわ否定しないのかよ。つうか、腕平気か?」
「ああ、全然さ。」
右腕を軽く動かしてみれば、うげぇと言いながら奇妙なものを見るかのような目で朔夜に見られる。
「普通、凡人なら数ヶ月で治すような傷じゃなかったか?なかなか刺し傷深かったんだぞ…お前」
「嘘つくな、他の人間でも1ヶ月程度でそこそこ治るだろ。こんな傷」
1ヶ月はない。そう言う朔夜を無視して、俺は止めていた足を再び進めだした。
季節は、気づけば、温かな季節へと移り変わっていた。
木の枝に実った蕾は花を咲かせ、全てこれまでの事がまるで無かったかのように、落ち着いた生活の日々を送っている。
……凛人。
『----透さん』
…そういえば、近頃のあいつも前に比べてよく笑うようになった。
凛人、俺はお前を幸せにできているだろうか?
俺は人の愛し方を知らないから、無意識にお前を今でも知らず知らずのうちに傷つけてしまっているのかもしれない。
…昔に戻れたら。
あの頃の俺に戻って、やり直すことが出来たら…俺は、…きっと…
凛人……お前のことを、もっと、大事に出来たかもしれないのに…。
ー
「おかえりなさい透さん」
家に帰ると、エプロンを着た凛人が出迎えた。
「ああ。ただいま」
靴を脱ぎリビングに向かうと、机の上には夕飯が並べられていた。
「今日はハンバーグだよ!どう?」
「ああ、好物だな」
ネクタイを緩めながら椅子に座りそう言えば、口元に笑みを浮かべた凛人がこちらを見てくる。
「なんだよ」
「ううん、透さんって意外と子ども舌なのかなーって」
はあ…?
「俺は少なくともお前みたいに甘いもの食わないぞ。」
「それはそれだろっ!」
「大体、コーヒーすら飲めないなんて、お前いくつだよ」
はっと鼻で笑うと、少々不機嫌な顔をした凛人が何やらぶつぶつ言いながら正面の椅子に腰掛けてくる。
「飲めないものは仕方ないでしょ」
「成人してるのにビールもコーヒーも飲めないんじゃな。見た目通り中身も子どものまんまなんだな」
そう言ってけらけら笑っていると、さらに凛人の顔が険しくなってくる。
「見た目通りってなんだよ」
「ガキだってことだよ」
「僕だって…大人だ」
「じゃあ何ができるんだ?」
「…え」
「言ってみろ。お前にできることなんてせいぜい、集ってくる変態野郎共相手に自分のケツ振って媚び売ることくらいだろうに」
すると、突然凛人が席を立ち上がった。
「……どうして…」
まずい。気づいた時にはもう遅い。
「…凛人、」
悔しそうに寄せられた眉の下にある凛人の瞳に涙が浮かんでいるのを見て、俺は静かに冷や汗を流した。
「……サイテーだよ…」
凛人はすると、バタバタと足音を立てて2階の自室まで一目散に向かっていってしまった。
ああ、どうやら俺はまた、やってしまったらしい…。
俺は1人残されたリビングではあ、と顔に手をやり息をつく。
大体、今月は確か、あいつの…。
…畜生……、何でこの俺がわざわざあいつの為に気遣いなんか…。
いや、だが今回の件は、俺が悪い、か…。
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