アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
123.出発
-
(…それにしても、透さんと旅行なんて久しぶりだ。)
春用のコートを羽織った透さんの後ろ姿を見て歩みを進めながら僕はひとり思う。
大体、僕今までこの人に半監禁されてるようなもんだったしな…。まあ今更この話を掘り返すつもりはないんだけれども…ね。
「何してる」
「えっ」
すると、少し離れた場所から透さんが僕の方へ振り向いて話しかけてくる。
「もうすぐ俺たちが乗る便が来る」
透さんは腕時計に目線を落としながらそう続ける。
「うん」
僕は透さんの元まで駆け寄った。
今日は、透さんと恋人同士になって初めての旅行。色々なことがありすぎて、順番を間違えている気がしなくもないけれど、今日明日は楽しめたらいいなぁ。
それにしても、
「あの」
透さんと一緒に新幹線に乗っていたら近くに座っていたらしき若めの女性に話しかけられた。
「?はい」
通路側にいた透さんが返事をそうかえすと、彼女は顔をほんのりと赤くさせた。
「あ、あの、どこまで行かれるんですか?」
彼女のその様子は誰がどう見ても透さんに気があるようにしか見えなかったが、透さんは至っていつも通りの表情だ。…慣れなのだとしたら、ちょっとムカつく。
ふん…。
「少し東北の方までね」
「あっ私達もその辺りまで行くんです。奇遇ですね」
「へえ」
「お菓子食べませんか?これ貰ってください」
透さんと女性はそこそこ話を交わして互いに笑みをこぼしている。ふーん、盛り上がってるみたいじゃん…。
「じゃ、私そろそろ席に戻りますね」
「ああどうも。」
僕はぺことお辞儀をしながら去っていく彼女に向かって笑みを浮かべる透さんを隣でじーっと見つめる。
「……」
「……。」
「………」
「なんだよ」
「ふーん。透さんでもあんな風に笑ったりするんだ」
「は?」
「いっつも怒った顔かわるーい顔しかしないくせに、僕にはさ。なんか違和感だなって思っただけ」
ふい、と僕は顔を透さんとは逆の窓側に反らす。普通、逆だよね。恋人には笑顔を見せないなんて、おかしな話だ。
「…怒ったのか?」
唐突に聞こえたその言葉に驚き、隣に振り向いてみれば真顔でこちらを見る透さんの姿が。
どうやら申し訳ないと思っているわけではなさそうだ。
「別に…っ!」
そんな、親がいじけた子どもを見るような目で見てこないでくれ。確かに透さんと歳はほんの少し離れてるかもしれないが、だけどこれじゃまるで僕が聞き分けのないほんとの子どもみたいじゃないか!僕だって大人だからな…!
「ほら。さっき貰ったいちご飴」
「…!」
「俺はいらないから、お前が食え」
……まあそんなこと言われたら…。
「…仕方ないなぁもう」
お菓子は大人でも食べるから、いいんだ。
それからふと窓から見える景色に目を移すと、何やら雲行きが怪しかった。せっかくの旅行だけど…雨でも降りそうだな。
何事もないといいんだけど…。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
124 / 178