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130.愛と優しさ
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まさか、こんなところで烏堂さんに会うとは…。
烏堂さんは気まずそうにする僕に向かってにこ、と微笑みかける。
「しばらくぶりだね」
「そうですね、…もう体動かして大丈夫なんですか?」
烏堂さんはああ、と言うと額にかかった前髪を少し上にあげた。
「額を少し縫ったんだ。でも平気だよ、脳に支障があるわけでもないし」
それに何も言えないでいると、再び烏堂さんが微笑み僕の頭に手で触れた。
「君ってほんとに優しいね」
「別に、そういうわけじゃ…」
「これは、俺が君に手を出そうとしてできた傷だよ。当然の報いだと思ってるよ、だからこれでいいんだ」
烏堂さんはそう言って柔らかい表情をさせた。
ほんの少し前と、雰囲気が変わった気がする。
「じゃあ、…僕はこれで」
「待って!」
踵を返そうとすると烏堂さんに腕を掴まれて、足を止める。
「まって凛人君、もう俺は君に嫌がるようなことはしないよ。今日はたまたまここを通りかかっただけなんだ、本当だよ。」
そう言って烏堂さんの目が若干下に落とされた。
「凛人君それ…あの男の?」
「……!」
僕は烏堂さんの目線と言葉に目を大きくさせ、慌てて首元を手で隠した。
「こ、これは」
「…」
烏堂さんは視線を逸らす僕を見て、何か追求することはなかった。
「いいんだ、君が幸せなら。」
「え…」
烏堂さんは僕を真っ直ぐに見つめ、言った。
「だけど、君が何か我慢しているなら、それは愛じゃない。」
え………
「心配なんだ、君は強いのに優しいから、それ故に優しさと愛を履き違えて認識しているんじゃないかって、そう」
履き違える…?一体どういう意味なんだ。
「僕、もう行きます。買い物に行かなきゃ」
「凛人君…!」
僕は駆け足でスーパーまで向かった。
脈拍がとても速いのがわかる。どうしてか分からない。だけど何故かすごく不安で、何かに駆り立てられるようで。
〝いいんだ、君が幸せなら〟
…幸せ。そうだ、僕は今、幸せだ。彼の言いたかったことなんて、僕には分からない。
ー『凛人』
…ああ、早く、透さんの元に帰らなきゃ。
透さんはきっと今日はカレーが食べたい日だ。早く家に帰らなきゃね。
透さん…。
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