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134.焦りと不安
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夜になり、透さんが帰ってきた。
「おかえり。透さん」
透さんはエプロンを身につけた僕に目をやると、ああ、と言って部屋の中へ足を進めた。
「今日はオムライスだよ。」
ちょっと子どもっぽかったかな、そう笑いかけながら透さんを見ると、いや。と透さんは言いスプーンを手にする。
「味どう?」
「美味いよ。」
透さんは素っ気なくそう答えると、オムライスをまた口へと運んだ。
あれ、なんか今日の透さん…元気がないような?
気のせいかな。
「明日何か食べたいものとかある?」
「え?ああそうだな。…いや、特に何でもいいよ。お前の好きなものを作ればいい」
透さんのそんな返事に僕は目を瞬かせる。
「そう?」
「ああ。」
透さんはそう呟くと、早々と食べ終えた食器を持ってシンクへと向かった。
何がこんなに違和感なんだろうかと思ったら、わかった。透さん、いつもより嫌味が全くないんだ。いつもなら、こんな些細な会話の中でも透さんはほぼ毎回僕にちょっかいをかけてくるような言葉を投げかけ話しかけてくる。だけど今日はそれがない。
「…透さん」
僕はシンクの前に立つ透さんの元に歩み寄り声をかけた。
「ん…?凛人、なんだ」
こちらを振り向いた透さんの表情は、至って変わらない、いつもと同じものに見える。
「…あ、…う、ううんっ!何でもないんだっ」
僕は笑ってそう返した。
透さんはそうか、と言って僕の横を通って風呂場へと向かった。
僕はそんな透さんの後ろ姿を見つめた。
透さんから今……嗅いだことの無い華やかな香水の匂いがした。透さんがいつも付けてるものじゃない。
僕は不安な気持ちを抱いたまま、去っていった透さんの方向を見つめていた。
それから数日が経って、僕と透さんはそれなりに平穏な日々を過ごしていた。
そんなある日の平日の午後、買い物から帰った僕は郵便受けに何かが届いているのを見つけそれを手に取って見た。
それは、立花 透さんへと書かれた、透さん宛の手紙とプレゼントらしきものだった。
…一体誰だろう…?僕は手紙と小包を手に、頭をクラリとさせた。
確かに、透さんは見た目がいい。
それ故に、あの人といるとこういう機会を目にすることがよくあった。しかし、皆あの人の本質を知らない。余計なことが起きれば、透さんがその相手に何をするかも分からない。
それ以前に僕だって透さんが誰かとどうこうなることは嫌だ。しかしそれ以上に、また何か大きな騒動になるのではないかと、僕はそれに焦りと不安を感じてならない。
…だからお願い。お願いだよ。僕は悩めかしく目を瞑り祈った。
どうかもう誰も、僕たちに近づかないで。あの人に近づかないで…。あの人の心を掻き乱さないで。
せっかく上手く進んでるんだ、透さんも今はかなり落ち着いてきている。なのに、周りがあの人を、僕たちを、放っておいてくれない。
静かにあの人と平穏に暮らしていたい、ただ…それだけなのに………ー。
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