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140.鋭い瞳
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外では、雨が降っていた。
僕は薄暗いリビングの部屋でひとり、席に着きながらふうと深いため息を吐く。
…最近透さんの様子がどこかおかしい。僕に何か隠しているような、そんな気がして胸の辺りがザワザワする。
まさか、僕の知らないうちにおかしなことになっているんじゃ…。
バン!
そのとき、ふいに透さんの部屋のドアが開く音がした。僕はその音にびくっと反応し、こちらに歩いて来る透さんを見た。
「透さん」
透さんは声をかける僕を鋭い瞳でちらりと見る。それは以前の、数ヶ月前にしていた透さんの目だった。
「と、透さん、起きるの遅かったね。やっぱり、仕事が大変なんだね。」
「……」
しかし、透さんは黙ったままだった。
透さんはキッチンへ行き軽く水を飲むと、口元を手の甲で拭った。
透さん……?
「どうかした?」
近寄って透さんの顔を見ようとすると、体を向こう側へと突き放された。
「…どうしたの…?」
恐る恐る出した声でそう尋ねた僕を見て、透さんは一瞬瞳を大きくさせた。
「いや……、」
「…」
「そうだ、お前ケーキ好きだろ。」
は?
「う、うん…すきだよ?」
でもどうして急に?
「なら、俺がこれから買ってきてやる」
?!…
「い、いいよ!外はこんなに大雨だし、今日は家でゆっくりしてたら…」
「行ってくる」
そう言うと、透さんは呼び止める僕の声を聞かず雨の中へと傘も持たずに走り去っていってしまった。僕はどうするか迷ったが、とりあえず透さんの帰りを待つことにした。
すると、少ししてすぐ。
「帰ったぞ」
雨に濡れた透さんがケーキの箱を片手に帰ってきた。僕はびしょ濡れの透さんの元に駆け寄った。
「と、透さん…!一体どうしたの、ほんとに…」
透さんの髪をタオルで拭きながら、僕は不安げな顔で尋ねる。
「別に。買ってきてやりたかっただけだ」
「もう…」
その後、僕達はふたり食卓テーブルの席につき、ケーキを食べた。
「どうだ」
正面に座る透さんが尋ねる。
「うん、相変わらず美味しいやここのケーキ」
「そうか。」
透さんは、フォークを片手に笑顔を咲かせる僕を見て同じように微笑を浮かべた。
珍しいな、透さんがこんなに優しい表情をするなんて。僕はどきりとする己の胸を慌ててケーキを食べて落ち着かせる。
「透さんのはぶどうのケーキ?」
「ああ。みたいだな」
「透さん、いつもケーキ買ってきてくれるけど周りから見られないの?…男一人でケーキ買いに行くってさ」
「は?別に、気にしたことねぇな」
すました顔でパクパクとケーキを食べ進める透さんに、そうみたいだね…と心の中で僕は呟く。
「あ、そういえば一昨日のスーパーで可愛い感じの子に会ったよ。」
「へえ」
「すごくウブな男の子でね、クス、1人でケーキ屋なんて絶対無理そう。何にも動じない透さんとはほんと大違いだよなぁ」
と、突然透さんがその場を立ち上がった。
ビク
「な、なに…?」
こちらを睨んでくる透さんの目を見て困惑する。
「俺のいない間に他所の男と仲良く何してたんだよ!!!」
「!!…ちょ……ちょっとまって…」
今にも殴りかかってきそうな透さんを前にし、僕は途端に持っていたフォークから手を離し、顔を青くさせる。
「ち、ちがうってば…たまたま、買い物してたら会った全然知らない子だよ、全然仲良くなんてしてない」
「…」
「ほ、ほんとだよ!」
すると、透さんは僕に向けていた恐ろしい目を僕から離すと、食べかけのケーキをそのままに、自室へと向かってしまった。
僕は震える手で落としたフォークを持ち直した。
最近透さんが優しいから、無意識にこんな話をしてしまった。でも、もう大丈夫だと思っていた…。
僕はひとり、リビングで残ったケーキを食べ進めるのだった。
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