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141.鉢合わせ(透side)
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「失礼します」
俺はその声にぼうっと見ていた資料から顔を上げた。
「…お前」
それは、ここ数日〝あれ以来〟顔を見かけていなかった七晴の姿だった。
七晴はにこ、と笑みを浮かべると、そのまま椅子に座る俺の元まで歩み寄った。
そして、椅子の向きを横にし、じっと冷静に目を向ける俺の膝の上に跨るようにして座ってくる彼。
「……何の真似だ」
俺の首に両手をまわし、ふふふとヤツはまた俺を見て笑った。
「ボクね、あなたをクビにしないよ」
七晴は至近距離でそう言った。
「だって、あなたはボクのものになるんだもん。あなたはボクと結婚するんだから」
「…」
「だから、今回のことは目を瞑っててあげる。」
そうして、七晴が近かった顔の距離をさらに近づけ、唇が触れる寸前で止め離れた。
七晴は微動だにしない俺の背に両手をまわし、ゆっくりと俺の肩口に顔を埋めた。
「絶対…あなたを手に入れる。ボクのものにしてみせる」
ーーー
「透さん」
「……」
「透さん、…透さんってば!!」
ハッーー
「…何だよ、凛人」
隣に座る凛人は、俺を見て眉を寄せている。
「もしかして話聞いてなかった?」
「話?」
すると、凛人はもう、と言いそっぽを向く。
「仕事で疲れてるなら、いいよ。僕もう寝るね」
立ち上がり、自室へ向かおうとする凛人の腕を俺は掴む。
「待てよ」
凛人が渋々といったように俺の方へ向く。
「なに?」
「何の話だよ、聞かせろよ」
「…。近所に、新しくケーキ屋が出来たみたいだから一緒に行かない?て、…誘っただけ。」
「そうだったのか。ああ、一緒に行こう」
俺は凛人の体を引き寄せ抱きしめながら言った。
「約束だよ?次の透さんの休みの日に行こうよ」
ああ。俺は凛人と顔を合わせ、深い口づけを交わした。
ーそうして訪れた休みの日。
「いっぱい買っちゃったね」
ケーキ屋からの帰り道、ケーキの入った紙袋を手に、笑顔を浮かべながら凛人が言う。
「そうだな。女といいお前といい、ほんと甘いもんが好きだよな」
「…女って、それ誰の話?まさか元カノとか?」
「ちげーよそんなんじゃねえ」
「じゃあ透さんの自慢話?」
「馬鹿、妬いてるのか?凛人」
凛人と他愛もない話をしながら帰路に着いていると、突然その声は聞こえた。
「あ!とおるさん!」
……な……今の声、まさか…。
「やっぱり、とおるさんだ」
声の方向に振り向くと、そこにはやはりこちらを見て笑って手を振ってくる七晴の姿があった。
そしてこちらに走りよってくる彼を見て、隣に立つ凛人が困惑したような顔をして見上げてくる。
「こんにちは、旅館で1度会ったよねボクたち」
「え…」
戸惑う凛人にそう笑顔で話しかける七晴。
七晴はそれから、俺の腕をとって体を寄せるとこう言った。
「ボクたち、会社の都合で近々結婚することが決まってるんです。ね、とおるさん」
「…!」
「……何…それ……」
凛人が俺たちを見て大きく目を開くのがわかった。
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