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148.過去の残り香(透side)
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ー数日前。
…
「おい透、まてよ!お前クビになったって、マジかよっ?」
「ああ。」
「な、どうしてそうなったんだよ…っ?この間の件か?」
「元々こんな会社いらなかったんだ。だから、自ら手放してやっただけさ」
俺は朔夜にそう言い残し、数年通った会社から足早に立ち去った。
それから俺は、とある病院へ来ていた。
エレベーターから降り、とある部屋のドアをガラッと開けた。
そこにいたのは、
「………。」
点滴をうたれながら横たわり目を閉じる俺の父親、そして、俺の父親ではない人物。
「よお。じじい」
俺は眠る老け込んだ爺さんにそう軽く口端を上げて言った。
要は、義父なのだ。
義父は、俺の声を聞き取りゆっくりと目を開けた。
「……お前…来てくれたのか…」
義父はそう俺に目を移しながら喋り、ベッドに置いていた片手を上げ俺に触れようとした。
「触んなよ」
俺はその手を交わすと、ふっと笑みながら言った。
「悪いが、あんたの会社辞めることになっちまった。あんたの大切な会社だったのに、他のやつに渡すことになっちまうみたいだ。悪く思うなよ」
義父はぼうとした呆けた表情でこちらを見るだけである。
「あ〜でも、これまでの高級取りが無くなるかと思うとちっとキツいかもなぁ。ある程度テキトーにしててもそれなりにやりくり出来てたのにさぁ」
凛人ともう高級ホテルに行けなくなると思うと、残念だな。あいつの驚く、喜ぶ豊かな表情が見れなくなると思うと…。
「……お前、」
「なんだよ」
ふと、義父にそう突然かけられた声に俺は瞬時に鋭い目をベッドに横たわる義父へと向けた。
すると義父は、ゆっくりと口元に笑みを浮かべ俺に向かって言った。
「ありがとなぁ、会社を守ってくれて……。」
「…」
「ああ、お前の好きにしたらいいさ…。これまで守ってくれたんだ、それだけで嬉しいさ」
義父はそう心底嬉しそうに笑み、俺はそんな義父からふ、と目を逸らした。
そして義父は笑んだ顔のまま俺を見つめながら言った。
「………本当にありがとうなぁ………蒼慈(ソウジ)……」
俺はその言葉に目を見開いた。
どうやら、義父は頭がボケてきたらしい。
俺は一瞬その事に驚くも、すぐにいつも通りの顔で相も変わらずアホくさい笑みを浮かべる義父を見た。
そして俺はそんな義父を上から見下ろしながら皮肉めいた憐れむ表情を浮かべ言った。
「…どういたしまして、お父さん。」
俺はそうして病室を出た。
病院の廊下を俺は瞳を伏せながら歩いた。
〝蒼慈〟
俺は頭にヤツが思い浮かぶのが分かった。
俺ははぁと、エレベーター前で重い息をついた。
俺は目を瞑った。
蒼慈とは、過去亡くなった、とある人物……それは立花家の長男であり、本来俺の今までいた席に着いているはずだった、誰もが認める生粋の御曹司であった人物。
彼は、立花 蒼慈とは、…俺の義兄だった人物の名であるーー。
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