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150.過去の残像2(透side)
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『今日は一段と心地の良い天気だね。』
ある日、男に呼ばれた俺が部屋を訪ねると、男はいつもの黄色のカーディガンを着て、ベッドのそばから見える窓の外の景色を見ながら口元を緩めて言った。
「はっ、お前は50そこらの爺さんかよ」
『透、昨日は外で何をしてきた?何を学んだ?』
「昨日?あー、人を20か30人くらい殴った」
『…何故そうも野蛮になってしまったんだ、君は』
男は深いため息を吐きながら片手で軽く頭を抱える動作をする。
「知るか」
俺がそう壁に背をつきながら吐き捨てるように言った時、ふと足元付近に何かが通るのが分かった。
「うわっ」
俺はそれが子どもだと分かり、酷く驚いた。
なんでこんな所にガキが…。
『よく来たね、凛人』
りん、と…?
男がその子どもを手招きすると、子どもはベッドに体を起こし座る男の元へかけて行った。
男はその子どもの頬を優しく撫でた。よく見ると、近所の中学の制服を着ている。
「お、おい、お前…子どもにまで手出してんのかよ!」
たまに女がこいつの部屋に出入りしているのは知っていたが。……この変態ロリコン野郎め。
『そういうんじゃないさ。でも、恋愛に年齢なんて関係ない。』
「あーそう…」
そのときふと、ちらとガキがこちらに振り返ってくるのが分かった。
(なんだよ)
俺はそう無言の圧力をかけながらガキを睨んだ。するとビクビクと怯え、涙目をうかべながら、男の服の裾を掴んだ。
『こらやめないか、この子を怖がらせるなよ』
「だーって暇なんだもんよ〜」
『まったく…。凛人、よしよし、怖くないぞ。ほら泣くな、男の子だろ?強くなるって約束しただろ?』
…男?
よく見るとそいつはズボンを履いていた。見た目が見た目だった為、女かと思った。
『…うん。僕、立花さんの言う通り強くなる。ずっとずっと強くなるよ』
男は涙ぐむガキの言葉を聞いて、よしよしと頭を撫でた。
それから数週間が経ったある日、たまたま玄関のドアを開けたあの子どもと遭遇した。
『……!』
そのガキは俺に気づくと、警戒したようにピリピリとしたオーラを放ちながらこちらを睨んでいる。つもり、らしい。
「おいガキ、邪魔だ退け」
玄関のドアの前に立つそいつを押しどけ、家を出ようとする。すると、
『立花さん、困らせないで…!』
ん…?
立花、つまりあの男のことを言っているのか?
俺はプルプルと震えながらこちらを見上げる子どもを、玄関のドアを閉めゆっくりと見下ろした。
「は?なんだてめぇ。」
『…っ…』
大きな瞳に潤んだ涙がたまり、女のように赤い唇はきゅっと固く結ばれている。
『喧嘩、よ…良くないっ!し…駄目だと思うっ!』
ったく、面倒な子どもを引き連れてきたもんだ。
「おいガキ」
『っっ!』
「お前、あの男に惚れてるなら、やめとけよ。あいつ、病気でそのうち死ぬぞ」
『……う…嘘だ』
「ほんとだよ」
そいつはすると、泣きながら俺の前から去っていった。
あの男がベッドにいる間いつも何を思っていたのか分からないが、俺は何故か男がもう時期息を引き取るのを悟っていた。
『…死後とは、一体どんな世界だろう』
「俺に聞かれてもな」
木の葉が緑色に色づく季節、そのとき俺は、19になっていた。
男はベッドに横たわり、瞳を閉じ微笑みながら呟いた。
『透、そういやお前高校留年したって?お前、何も言わないから…。何やってるんだ、そんなんじゃ俺はまだ天国に行けないな』
「うるせーな。人のことは放っとけよ」
『無理さ。お前は俺にとっては弟なんだ。例えお前がそう思ってくれていなくてもさ』
「…」
『透、お前は最後まで心に抱えていたものを、俺に話そうとはしなかった。それに、兄貴とも、兄ちゃんとも、俺のことを呼んではくれなかった』
そう話す男の表情は寂しげだった。
『…父ももうじき体にガタがくる。透、最後にお前に頼みがある』
俺はそれに嫌な予感を感じて、ベッドのそばにあった椅子から席を立つ。
「やだやだ、なんだそれ?最後の頼み?聞くかそんなもの!!」
『透、会社のことを頼む。』
「黙れよ!!!…っっふざけんなよ!!そうか、この為に俺をあの日拾ったのか!!あんたのコマにすっかり成り果ててたわけだ!」
『…透』
「俺やだよ!言ったぜ、継がねーぜ!!」
義兄はふ、と微笑を浮かべた。
俺はその場に立ったまま、目を閉じる男の顔を睨み続けていた。
『俺の願いはもう1つ。』
「…なに…っ!?」
『あの子を、…凛人を頼んだぞ。』
凛人……だと…?
「ふざけんな!!誰があんなガキのお守り…!てめぇ頭湧いてんのかよ!!」
『あの子が、きっとお前の道標になる。きっとお前の行く道を、示してくれる。…だから透、いいな』
「……黙れ、テキトー言うな、殺すぞ」
義兄は言った。
『…俺は信じてるぞ。俺はお前を、透を…、…信じている…ーー』
齢25歳、20×△年8月18日。
そうして、その言葉を最後に、立花 蒼慈は二度と目を覚ますことはなかった。
…
……俺は長い過去の出来事から目を覚ました。
久しぶりに過去の記憶を思い出した。
それから俺は、凛人を日々目で追うようになるわけだが、…だが今は、これ以上思い出すのはよそう。
凛人の為にも、さっさと手頃な職を見つけなければ…。
俺は病院から出た。
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