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160.夏の訪れ
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「はい。お弁当」
僕たちは、順調に何気ない幸せな毎日を変わらず送っていた。
「ああ」
僕の渡したお弁当を透さんが手に取り、鞄に入れる。
「あっそうだ、そういえばタマの餌がもう無くなりそう」
「仕方ねーな。今週末じゃ駄目なのか?」
「間に合わないかも。」
ううん、と眉を寄せ唸りながら僕が言うと、ふうと息を吐く透さん。
「なら、俺が仕事の帰りに買って帰ってやるよ」
「僕が買ってもいいんだけどさ」
「非力なお前がペットの餌持って帰れるわけないだろ」
…う。
まあ、当たりなんだけども。
「じゃ、俺行ってくる。」
僕の頭を撫でながら透さんが無表情に言う。
「うん」
僕は透さんを見上げながらこくりと頷いた。
ドアを開けて出ていく透さんに手を振りながら、僕は笑みを浮かべる。
…さて。家事して掃除したら、午後は買い物に行こうかな。冷蔵庫にあまり物がないし。
薄いTシャツにズボンを着て、白い靴をトントンと履くと僕は肩に鞄の紐を掛け直してから家を出た。
(…ふう、それにしても最近暑くなってきたな。)
青い空にてかてかと輝く太陽の眩しい日差しを見上げながら僕は目を細める。
…もうじき、あれから1年になるのか…。
ー『どうせ死ぬんだろ。なら、俺の奴隷にでもなれ』
ふと昔のことを頭に蘇らせていると、スーパーに行こうと足を動かす僕の前に見覚えのある人物が視界に映った。
あれは…。
横断歩道の向こう側に佇むこちらを見ているようなその彼の姿に、僕は鞄の紐をぎゅっと握った。
「こんにちは」
横断歩道を渡らずに立ち止まる僕の前に彼がほんの少し微笑みながら近寄ってくる。
「…うん、こんにちは」
彼の名前は何か、僕は分からないが。
透さんは知っているのだろうか…。
「ボクが何でまた目の前に現れたのか、て思ってる?」
ビク
「別に…」
距離を縮めてくる彼に、僕は顔を逸らし言う。
「見たところ、順調そうなんだね。君たち」
彼は、何を考えているのか分からない微笑を浮かべて僕を見て言った。
「まあ、そうだけど…」
「許せないな」
僕の声に被さるように彼が言った。
「え?」
「あの人、会社を辞めてぐだぐだになると思ったのに、ちゃんと君の為に働いてるみたいだし」
「…」
「あんたは幸せだね。ボクはあんたが羨ましい。何もしなくても無償に愛してもらえるんだからさ」
彼がどこか憎むような目で僕を見ながらそう言った。
「何でボクがあの時君たちの旅行先にいたか分かる?」
彼が立ち尽くす僕の周りをゆっくりと歩きながら話す。
「え…」
僕はドクンという心臓の音を立てながら彼の視線を感じ息を飲む。
「最初からあの人目的だったのさ。」
「…!」
「眼鏡のあの男は兄じゃないしあれはボクの執事。」
「執事…?」
尋ねる僕の隣ではあぁっと彼が大きな息を吐く。
「本当はあの時あの人を君から遠ざけるつもりだった。斎賀に君を襲わせて君と斎賀がそういうことになれば、あの人は君を見限ってボクのものになると思ったんだ」
それなのに…、彼は頭を伏せ唇を噛んでいるようだった。
「あいつは、あの男は…このボクが尽くそうとしたのに、ボクを…コケにしやがって」
キッと鋭い瞳が突然僕を見た。
「幸せになんかさせない、あの人はボクのものだ」
睨んだ顔をしてこちらを見る彼に向かって僕は驚きながら、口を開く。
「…もう透さんに近寄ったら駄目だ」
「は、何を言うんだ」
「あの人がまた、君に何するか分からない。君が透さんのことをどこまで知っているのか分からないけど…、もう近づかない方がいい」
すると突然ドンッと体を彼に押された。
僕はその場によろ、とよろめきながら何とか踏みとどまり鞄を肩にかけ直し、目の前の彼を見上げた。
「……は…何だよそれ」
「…」
「分かったよあんたの考えが。あの人に対する想いがどのてーどなのかがっっ!」
「僕はっ…」
「黙れ!!あの人はボクのものだ!あんたになんか渡さない!たとえ力づくでも…、あの人をボクのものにする!!」
僕は激高する彼を見ながら何も言えなかった。
「…あの人を幸せになんかしてやらない…。ボクを無視して…ボクよりあんたなんて。そんなことボクは絶対に許さない…」
ぶるり、汗ばんだ体が冷たい風に撫でられて寒気が走るのを感じた。
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