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161.束の間の安堵
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夜、ガチャっと玄関のドアの開く音に僕はハッと顔を上げた。
「ただいま」
「…透さん」
「ほら、餌。買って帰ったぞ」
片手でペットの餌の袋を持つスーツ姿の透さんを見て、僕はそっと瞳を下にする。
「あ?なんだ」
「…」
「餌これじゃなかったか?いつもこれだったろ」
突っ立つ僕の横を歩き、餌をどさっと置く透さん。
「透さん」
手を洗い、上着を脱いで再びリビングに戻ってきた透さんに僕はエプロンを着たまま声をかける。
「なんだ」
「その…」
僕は今日あった彼との事をどう言えばいいものかと口ごもる。
「?どうした、凛人」
透さんは眉を寄せ訝しむように僕を見下ろしている。
「あぁー…っええっと…」
「…」
そのまま結局何も言えずに口を閉じ、押し黙る僕。すると、ぐ、と顎を掴まれ上にあげられた。
「らしくねーな。うじうじしてるお前は」
「…!!」
う、うじうじ……だと…っ!?
「なんだ、外出先で変な言いがかりでも付けられて、虐められでもしたか?」
どきっ
……何で若干図星を付いてくるんだろうこの人は。ちょっと違うけど。
「そんなんじゃないけど…」
「何かあったら言えよ。」
え?
見上げると、透さんの手に頭をクシャっと撫でられ、切れ長の瞳に見つめられた。
「何かあったら、何でも俺に言えばいい」
ドキ
「俺がそいつをぶん殴ってやる。」
「…ぶ、物騒だってば…」
僕は透さんに体をそのまま引き寄せられた。
透さんの胸の中に突然いたことに驚いたが、僕は後にゆっくりと透さんの背中に手を回した。
ああ、僕はきっと…透さんに甘えている。
あの子の言う通りだ。
でも、今更透さんのいない生活なんて考えられない。
1人だった僕を、あのときどんな理由であろうと、救ってくれたのは透さんだけだった。…僕には、透さんしかいない。透さんがすべて。
…誰にも渡したくない。
いつもいつも優しいわけじゃないけれど、だけど、僕は…。
…この人を、愛している…。
ー
「いってらっしゃい。」
「ああ」
朝、いつも通りスーツを着こなして鞄を片手に革靴を履く透さんを前に、僕は軽く笑みを浮かべて言う。
「そうだ、明日は休みだしそれに給料日だし、どこか行くか。たまには」
「え?」
胸元のポケットにそう言い手を伸ばす透さん。そしてそのままその手をスっと下におろした。
透さんは最近、煙草をあまり吸わないようにしているらしい。よく分からないけど、本人は辞めたいらしい。
…一緒に住む僕のためだったりするのかな?、なんてね。
「どこ行くの?」
「まだ決めてないけど、海でも見に行くか。」
「海?」
…なんかデートっぽい。ていうか…
何となく海という言葉が透さんらしくなくて、僕は思わずぷっと吹き出して肩を震わせて笑ってしまう。
「おいなんだよ」
あ、まずい。
「ううん」
僕はムス、とした顔を浮かべる透さんに慌てて首を横に振る。
「楽しみにしてる」
そう返すと、透さんの顔が近づき、ちゅ、と唇にキスをされた。
「行ってくる。凛人」
僕は仕事場に向かっていく透さんの姿を見ながら笑って手を振った。天気は今日も、快晴らしい。
僕は部屋に戻り、タマを胸に抱えた。
「タマ〜〜」
「ミャ〜」
「いい子だね〜よしよし」
「…ミャ〜?」
きっと、こういうのが幸せなんだね。
僕はさっきまで考えていた不安も忘れて、タマに頬を擦り寄せながら笑った。
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